第71話 生徒会メンバーがいる前で膝枕をする
郡山先生も最初は一杯だけと言っていた気がする。
でも、どんどんお酒を飲み干した。
そのせいで、ちょっとした宴会に発展していた。
「ギャハハハ!! そうですか! そうですか! やっぱり学校は大変ですか!!」
「大変ですよー。授業の予習や残業代を何時間してもお金なんて出ないんですか! どんなブラック企業よりもブラックですよ。やりがい搾取ですよ!!」
「それはブラックなだけにラックな仕事じゃありませんねぇ! ハハハッ!!」
「アハハハッ!!」
自分の父親と郡山先生はみっともなく管を巻いていた。
時折二人の話がヒートアップするせいで、周りからの注目を集めている時がある。
他人の振りをしたい。
「う、うるさいですね……。ウチの酔っ払いは」
「ま、まあ、先生達も日頃の疲れが溜まってるんじゃないか?」
早乙女先輩が、恥ずかしそうに縮こまっているツユをフォローしてくれる。
流石は先輩だ。
俺も生徒会のみんなに謝っておこう。
「すいません。ウチの父親がみっともない所みせて……」
「い、いいや、いいんじゃねぇか。あの面倒臭いゴリ山の相手をしてくれるだけでもありがてぇし」
俺達を置いて二人で酒盛りをしている。
父親も普段お酒を飲む相手がいないせいか、普段よりも生き生きしている気がしている。
いいご身分ではあるけど、あの郡山先生との地獄のような空気から解放されたのは僥倖だ。
「――それよりも、ライカの妹か。たまーに姉の周りでニアピンはするけど、こうしてまともに喋るのは初めてか? 久しぶりか?」
「……どうも」
早乙女先輩に慣れていないのか、ツユの口数が少ない。
それが気になったのか、早乙女先輩が珍しく狼狽している。
「なんかやったか? 私?」
「いや、人見知りだから緊張しているだけだと思います」
「……それにしたって、私に対して前はああいう態度はしてなかったと思うけどな」
そうなのか?
何かあったのかな?
そもそも早乙女先輩とツユが一緒にいる所を俺は見たことがないからピンと来ない。
やっぱり学校で会うのと、こうして外で会うのとではツユも勝手が違うんじゃないんだろうか?
「あ、あの……」
ツユは忙しなく目を泳がせると、
「兄さんとはあんまり近寄らない方がいいと思います。危険なので」
「どういうこと!?」
「そのままの意味です。すぐに鼻の下伸ばすので!」
「いやいや」
そのいい方だと、俺が誰にでも手を出す屑野郎みたいになるんだけど、大丈夫? 早乙女先輩に誤解されてない?
と思って早乙女先輩を見やると、何やらニヤニヤしている。
全く想像もしていなかった表情だ。
「はーん」
「な、なんですか?」
「愛しのお兄ちゃんを、私に盗られると思って焦ってるんだな」
「え――」
「なっ!? そ、そんな訳ないじゃないですか!?」
俺が言い返し終わる前に、ツユは立ち上がる。
生徒会の人が眼を点にするのも構わずに否定の言葉を言い放つ。
「いきなり兄さんができてこっちはいい迷惑です!!」
「え?」
「あっ、いえ、今のは違います……すいません……」
シュン、とツユが頭を下げる。
いきなり謝られても困るのだが……。
どうしたもんかと、早乙女先輩と顔を見合わせる。
「まあ、あれじゃねぇか? いきなり家族になって大変だったりするだろ?」
「大変、ですか……」
また答えづらい質問を投げかけられてしまった。
全く大変じゃないと言えば嘘になるが、大変だと答えたらそれはそれで問題が起きそうだ。
「……ああ、悪い。踏み込んで訊き過ぎたな。忘れてくれ」
「い、いいえ、そんなことは……」
俺達が答えなかったら深読みしたようだ。
別に俺とツユやライカさん達が新しい家族になったことを言われて、そこまでギクシャクするようなことじゃない。
もう、俺達は新しい家族になったのだから。
「そうですよ。兄さんの言う通り気にしないでください。……ええと、まあ。正直それよりも大変なことが最近立て続けに起こってそれどころじゃなかったので……」
確かに最近色々あったな。
ツユがストーカー被害にあったこととか、それとか、
「ああ、自分の兄貴が彼女と別れたこととかか?」
「……うっ」
忘れようとしていることを早乙女先輩に言われて胸が痛い。
「そ、それはいいんです。兄さんと『元』彼女さんとは話もしましたし、もう終わった事ですから」
「ほー。全部終わらせて自分の兄貴はもう一人で安全だと。でもしっかりと捕まえてないとまた新しい彼女を作るかも知れないぞ?」
「そ、それはないです! 兄さんはモテませんから!」
「あ、はい……」
本当のことなので否定ができない。
奇跡的にアイと付き合えたから、そのお陰で注目されてモテるというか異性に興味を持たれていたかも知れない。
けど、付き合った相手が特殊過ぎて、未だに異性とどう接すればいいとか、どうすれば付き合えるとか分からないんだよな。
どうすれば女性にモテるようになるのか誰か教えて欲しい。
「どうかな。分かる奴がいれば分かると思うが……。生徒会として活動してれば、自ずと他の部活動の奴等とも絡むようになる。もっと人と関わるようになるから、お前の兄もモテてくるかもしれないぞ?」
「そ、そうだといいですね……」
そうなってくれたらいいけど、あくまでも希望的観測って感じだ。
あまり社交的なタイプじゃないから、色んな人と関わって出会いは増えるだろう。
でも、だからといってモテるかどうかは別問題だ。
「もう、烈火。あんまりツユちゃんを困らせないで。自分の気に入った子ができたらすぐにちょっかい出すんだから」
「悪い悪い。随分とお前の妹が可愛い反応をするもんだからな」
早乙女先輩は意地悪そうな笑みを浮かべる。
この人Sっぽいもんな。
ツユがリアクション大きいものだから興が乗ったんだろうな。
「それよりライカはどうなんだ? 自分の弟は?」
「ソラ君? いい子だよ! とっても! 自慢の弟だよ!」
「う、うーん。……なんか模範解答過ぎて嘘くさいなー」
「ほ、本当だよ! もう、何言ってるのかな? 烈火は」
え?
それって、自慢の弟じゃないってこと?
地味に傷つくんだけど。
ライカさんは気遣いしまくる人だから、俺のことを本心でどう思っているのか分かりづらいのがな。
ちょっと今日だけで色々と人間関係に亀裂入りそうなんだが。
やっぱり腹を割って話せる花見っていう制度、あんまりよくないんじゃないだろうか。
普段とは違うことを喋るから、知りたくもないことをどんどん知っていく気が……。
「すいません! お父さん、私トイレに行ってきます! せっかくのアルコールが全部身体から抜けてしまうので」
「おお、それは勿体ないですねぇ! 行ってきてください!!」
酔っぱらっているせいで、デレカシー0の会話を繰り広げる大人組。
その内の一人である郡山先生が消えたので、ようやくザルな父親を諫めることができる。
「……飲みすぎじゃない?」
「ん? ソラか。なんだ、全然飲んでないって。このぐらいで酔わないようにできてるから、俺の身体は」
「いや、もう、若くないんだし、昔みたいには飲めないって」
「だから、酔って、酔ってない……って……」
段々と呂律が回らなくなった父親は俺の身体にもたれかかって来た。
「おい! おい! ちょっと!」
「……うぐぅ」
バチン、とブレーカーが落ちたみたいに父親の意識は切れてしまった。
揺すっても、頬をペチンと叩いても反応がない。
しかももたれかかり方が悪かった。
ピタゴラス的な偶然で、図らずも父親を膝枕するような体制になってしまった。
意識がない人間は相当に重い。
頭を上げようとするがビクともしない。
「お、起きない……あの――」
助けを呼ぼうとツユを見るが、サッと首を回される。
それで――とか言いながら早乙女先輩達と仲良し気に会話を繰り広げる。
これは、見捨てられたな。
というか早乙女先輩はククク、と笑いが漏れているから面白がっている。
ライカさんが俺のところに来てくれようと腰を持ち上げるが、早乙女先輩は肩に手を当てて制止する。
首を振って俺のことを放置するように言っているみたいだ。
これは郡山先生に助けてもらうしかない。
ジョリジョリ、と父親の髭が膝に当たりながら、まったく嬉しくない膝枕をしながら俺は心の中で絶叫する。
早く帰って来て!! 助けて郡山先生!!
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