幼なじみに恋したので不良辞めます。

みーぽん

幼なじみに恋したので不良辞めます。

私は南美香高校2年生。

そろそろ受験のことを考え始めていかないといけない時期。

私の幼なじみのあいつは進路を決めて毎日勉強に打ち込んでいるらしい。勉強の何が楽しいんだか。

私は俗に言うヤンキー。勉強なんてやってこなかったし、部活にも入らずにセンコーもも呆れているくらいだった。

親にも何も言われない。てか、もう何を言っても無駄だと思ってるんだろう。

ま、そっちの方が楽だ。自分のやりたいことだけやれるんだから


だけど、幼なじみだけは、ずっと私に勉強のことを言ってくる。


「お前流石に勉強しないとやべえぞ?」


お前は私の親かよと思う。

「知らね。お前とは違うんだよ。」


「ほんと昔から変わらねえよなあ…」


「あんたみたいに真面目じゃないからね」


親みたいなことを言うのは幼なじみの北川春陽。

うるさい年上だけどなんか憎めないやつ。でも、こいつは学級長で、学年の成績はトップらしい。

こいつと一緒だから比べられると思った時期もあった。でもまあ、嫌なやつじゃないのは自分が一番わかってるつもりだし…


「はあ…好きな人欲しい。」


ふと幼馴染がこんなことを言った。

「めずらし。」


「俺もそれくらいの年齢だから」


「こんな勉強オタクのやつが?」


「なんかお前に言われると腹立つ。」


こうしてバカ言い合って帰るのが日常茶飯事。

「でもおまえも欲しいんじゃねぇの?」


「ヤンキーは好きな人なんていませんよーだ。」


本当は現実から目を背けたかっただけなのかな。


次の日、久しぶりに教室に向かった。

周りの目は冷たいけど何も気にならない。自分の席に座って、まっさらな教科書を手に持つ。

その時、


「美香!!!!」


聞き覚えのある声が聞こえた。


「久しぶり。」


「心配かけやがって!!」


ずっと連絡を取り合ってた友達の長谷川加奈だった。


「わからないところは教えるから!」


「加奈もバカじゃん」


「なっ!失礼な!」


ただ話しているだけなのに楽しかった。


思ってたより学校は居やすかった。

加奈が間を持ってくれていろんな友達ができた。勉強もいろんな人が教えてくれた。

充実したI日だったと我ながら思った。


3年生の幼なじみを見てやろうと思って下の階にいる3年生の部屋に行くとみんなが一生懸命机と向き合っていた。

いつもはバカして笑ってる幼なじみも真剣に勉強していて、背中が緊張を帯びていた。

誰かがあいつに質問しに来ていた。あいつは少し驚いてたけど、すぐに教えてた。

少し胸が痛く感じたけど、何も気にせず下駄箱に向かった。


「おーい。おまえ先帰んなよ。」


後ろからかけられた声に思わずびっくりしてしまった。

さっきまで勉強していたはずのあいつが私を呼び止めていました。


「お前今日教室行ったんだってな。めっちゃ噂なってたぞ?」


「ほんと、人が行くだけでみんなうるさいね。」


「俺と一緒に勉強するか?」


「邪魔にならないならやろうかな。」


「おぉ…お前のことだから断ると思ったわ。」


「変わるって決めたの。」


ま、変わるって決めた理由は春陽のおかげだなんて言わないけどね?


「お前バカすぎない?」


「それ言わない代わりに連れてきたんじゃなかったっけ?」


「だったとしても九九わからないのによく高校までやって来たよ。」


「え?7×8=56,7×9=53でしょ?」


「いやさ…なんで数減ってんの?」


「ん?あ、ほんとだ。」


「お前。これから猛勉強な。」


「邪魔ならないの?」


「俺、もうほぼ大学決まってるから。」


「え、知らなかったんだけど」


「だって、言ってねぇもん。」


知りもしなかった幼なじみの受験の話を聞けたから満足して勉強に専念してたけど…


「ダァ!もう分かんねえ!!!!」


「お前何回目だよ。」


「こんな範囲知るかよ!なんだよ低気圧と高気圧って!」


「高血圧しかしらしらねぇんだけど。」


「なんで逆にそんなの知ってんだよ。」


「母上が使ってるから?」


「それはなんか失礼。」


「なんで失礼なのさ!」


「お母さんの情報を勝手に流すな。」


「聞いたのお前の方じゃんか!」


知るわけないじゃん!誰だよ!天気とか考えたやつ!

だから勉強とか嫌いだわ…


「…お前が次のテストで順位一桁入ったらしたいことしてやる。」


「約束だからね?」


私のやりたいことってなんなのだろう…


そこから休みの日も学校の日も勉強を欠かさなかった。

最初は訳のわからなかった範囲も少しずつ理解出来るようになってきた。


「テストとか…初めて受けるわ。」


テストの予定が配られて周りは落胆してるけど、私からしたら初めてのテストでどの並び方が悪いとかわからないからなんとも思わない。


「ねぇ!美香!このテスト順最悪なんだけど。」


「そうなの?分からないわ。」


「その考え羨ましいわ…。」


「え?」


いや…この並び順嫌な並び方なの?

日本史、化学、コミって。


そんなことを考えながらずっと勉強してた。

周りは何かあった?って言われたから

「ううん何も」って答えたけど、本当は違う。


『やりたいことのためなら頑張れるんだ。』


テストも無事終わって、テスト返しの日。自信は微妙だけどね。


「お前が一桁にならないことを祈るわ。」


「え。ひど。言い始めたのそっちじゃん。」


「まさかここまでガチになると思わなかった」


「私のこと舐めてたってことで理解していい?」


なんてバカなことを言い合いながら通えていることは当たり前じゃなかったんだ。


「テスト返すぞ」


「最高得点は94だ」


「平均は53.8な。」


「え?平均低くない?」


「でもこの得点で94点はすごいよね。」


「南美香〜」


「お前よく頑張ったな」


「え?」


テストの点数を見ると94点。


「う、嘘!!!!」


「え?なになに?」


「き…94点…」


「え!凄いじゃん!美香!」


「勉強した甲斐あったかも…」


「ほんと。凄いね。簡単に取れるものじゃないよ。」


楽しいとまでは思わないけどさ。

その後も続々とテストは返された。


いい教科と悪い教科の差は激しかったけどね…


「よし、じゃあここに順位載ってるから。」


一桁なればいいな…って、私はあいつと何かするのを望んでいるのか…?


帰ってきた順位は28位。到底一桁なんて追えない位置だった。


「そっか…。そうだよね…」


勉強を教えてもらったのに、その期待に応えることができない自分に苛立っている自分がいた。

学校が終わっていつもなら教室から1番に出て行くのに今日は出て行く気にもなれなかったら、春陽にも合わせる顔がなくて教室で1人泣いていた。

最初から私なんかに勉強なんてできなかったんだ。やる意味なんてなかったんだ。


「はぁ…最初からやってなきゃ良かった…」

「……何泣いてんの?」


「っ⁉︎な、泣いてない!」


「泣いてんじゃん。あ、テスト返ってきた?」


私が今触れられたくないところに触れてくるあいつ。


「関係ないじゃん!帰ってよ!!!!」


「あ、点数悪かったのか?」


「お前はいつも点数いいからそうやって言えるんだろ!」


「ごめんな。そんなつもりは無かった。」


「俺な、お前が勉強するって言ってくれたのが嬉しくてさ、俺にできることはしたいなって思ったんだ。俺、後輩でしゃべれるのお前だけだからもっと一緒にいたかったんだ。でも、勝手に俺自惚れてたのかな。」


「なんかごめん。カッとなって…」


「別にいいよ。俺も言葉選ばなかったの悪いし…」


強くいうわけでもなければ、弱くいうわけでもない。

私に寄り添った言葉の使い方で彼は私に話してくれた。


彼の目をふと見ると涙が浮かんでいた。

そんな涙は私の方にも伝っていて2人っきりの教室で2人共が号泣していた。


ほんとこいつ私の気持ち揺らしすぎなんだよ。


そこからは受験が終わってるけど、あまり一緒に行く機会も減っていた。

卒業式の日も会うことは無かった。


家には行ったけど、友達と遊びに行ってるよと言われて、断念した。


そしてそのまま何も進むことなく、春陽は卒業してしまった。

どこの大学に進んだかはわからなかった。

あいつのことだから私に教えないように徹底したんだろうなってすぐに分かった。

でも、私はそんなにすぐに諦められるような人間では生憎ないのだ。


先生の元に行っては毎日尋ねる。


「北川春陽はどこの大学に行ったんですか?」


そう言っても帰ってくる言葉は毎日一緒。


「あいつに伝えるなって言われてるんだ。」


徹底ぶりには驚いた。やっぱり迷惑だったのだろうか。

なんか迷惑とかって言ってましたか?って聞いても、そんなことは言ってなかったって言う。

だったら、なんで…って思うけど、あまり深読みはできない。


「どうしたらいいんだろ…」


本当に恋をしたのは私だけだったのかもしれないそう思った時に私の心はぽっかりと穴が空いた気がした。

もうあいつのことなんて忘れよう。

ちょっとだけ夢を見させたかっただけなんだ。こうやって自惚れていく私を見てあいつは嘲笑いたかっただけなんだ。


違うかもしれないのに、全てネガティブに想像がたけていく。

さようなら。春陽。


できるならもう私の前に現れないで欲しいです。


そう願っていたのに……


3年生になって、親ともしっかり会話をした上で大学に進みたいとお願いした。

親は大学進学をとても喜んでくれた。


誰に何を刺激されたの?って聞かれて、思わずあいつの名前を出しそうになったけど、躊躇した。

正直あいつの名前を聞きたくないと私の体が拒否したのかもしれない。だから親にはやりたいことを見つけたって誤魔化した。


昔のあの状態なら喜んであいつの名前を出していたんだろうな。


塾には行かず、1人で黙々と勉強した。

あの時に大泣きして苦しんでからもっと勉強するようになって、学年1位を取ったこともあった。


学部は違うくてもいい。

ただ、あいつと同じ学校に通いたかっただけなのに。また、ニコニコ2人でバカ言いながら、通学したかっただけなのに。


それを、潰されただけで苦しくて、辛かった。

部屋でボロ泣きしてた。


「最近よく泣いてるな……」


気分を変えたくて、親にコンビニにアイス買ってくるけど、いる?なんて言って、外に出た。

外はもう真っ暗で携帯だけを持ったまま外に出たことを少しだけ後悔した。


コンビニが近づいてきてると思った時、前で大勢の人が囲っているのが見えた。


バレないように近づいてみると、脅されてるようだった。


「ほら、さっさと買ってこいよ」


「いや……あの。」


「学年トップだからって調子乗んなよ!」



中の人が押し潰されそうになってるのを見て、昔の私の血が騒いだ。


「なぁ……なにやってんの?」



自分でも驚くぐらいの低い声が出た。

何を言われようが関係ない。バカにされようが、大学に行けなくてもいいと思った。


その時だけは、ヤンキーの私が戻った。


「そいつ嫌がってんじゃん。やめろよ。あぁ?」


「てめぇ、女のくせに男に相手できると思ってんのかよ」


「その言葉今なら撤回させてもいいけど?」


「はっ?するかよ」


「あっそ。」


「てめぇら、大学か?」


「そうだけどなんだよ。」


「私より年上が何してんだよ」


「年下が無駄口聞いてんじゃねぇぞ!」



女と年下だからって舐められてるのがムカつく。


「容赦しねぇから。」



そこから5分経たなかったと思う。

気付けば、相手は全員倒れてて、真ん中に囲まれてたであろう男が一人驚いた顔をして突っ立ってた。


「な、何してんの?」


声を聞いて、驚いた。

まさかの春陽だった。


「そっちこそ。」


「こいつら同じ学校のやつでさ……」



真面目さが、凶と出てどうやらいじめられてたらしい。

いじめと言っても、いわゆる奴隷的な扱い。


パンを買いに行かされたり、お金は渡されずに、自分のお金で買わないといけない。

宿題やノートを代わりにやるとかね。


「あいつらやばいじゃん。なんで言わないの?」


「言ったら、家族に手を出されるから」


「……は?」


「家特定されてんの。」


「……犯罪じゃん。」


「仕方ないんだ。俺のキャラが気に入らないらしくて」


「頭良いんでしょ?」


「……うん。」


「別にいいじゃん。そのまんまで。」


「私お前に助けられたし。」


「ねぇ、なんで黙ってたの。」


「な、なにが?」


「大学どこに行ってるか。」


「別にいいじゃん。俺の行ってるところなんか」


「分からない?私がなんでこんなに春陽のこと信頼してるか」


「…それは頭がいいからだろ?」



なんでこいつこんなに鈍感なの!?


「それもあるけど…」


「私の言いたいこと…分かる?」


「…なに?」


「大学教えてよ」


「……なんで?」


「同じところ進みたい。」


「別に来なくても……」


「苦しんでるところもう見たくないから。」


「……ッ。」


「……○○大学だよ。」


「…分かった。」



それが聞けただけ良かったと思った。

もう離したくない。


もうこいつを傷付けたくない。


悲しんでる顔もう見たくない。

あいつに似合うのは笑顔だけだ。


その一心で、勉強を続けた。

私は、文系だったから、何学部に進むかもとても迷ったけど、両親や先生と話をして、法学部に進むことを決めた。



でも、ここまで進んでも、まだ困っていることはある。


「私たちの関係は……」


私は、彼のことが好きなんだろうけど、春陽はどうなのだろう……



ただの幼なじみという関係なのかな……

それ以上進めたらいけない関係になってるのかな。


急に不安が増す。



でも、今更後戻りはできない。

この大学だけには受からないといけない。



そうして、何とか大学の合格判定を貰えた。

1番に伝えたくて、ありがとうを言いたくて、私は彼の家に足を進めた。


ピンポーン


出るかな…なんて思いながら、家の前に立つ。

せっかく合格できたから、また一緒にここから行けるのかな。



それとも、この前のやつで迷惑だって感じられて、行くのは無理だって言われちゃうかな…


「…はーい。」


「ってどした?」


「あ、いや…合格したから…」


「報告にって思って…」


「お、おめでと。法学部か?」


「うん。そうなの。」


「あ、あの(さ)!」


2人の声が被る。

お互いに伝えたいことがあったらしい。


「あ、いいよ。そっちからで。」


「あ、うん…これからさ、また一緒に行かね?」


「…いいの?」


「あぁ。」


「私もそう言おうとしてたの。」


「同じこと思うもんなんだな。」


「確かに。まあ、その一心で勉強してたから…かな?」


「ははっ。嬉しいこと言ってくれるじゃん!」


「もう絶対言わないわ。」


「え、ごめんって!」



違う、本当はこのこと以外にも話したいことがあるのに…


本当は…私が本当にこの学校に決めたのは…



やめよう。今言ったって迷惑をかけるだけだ。


「じゃあ、また大学入学式の日に」


「おう、じゃあまたな。」



「また3年かけてお前のこと…好きにさせるから」


「変わったな…私。」




こんなにも言えない言葉があるなんて知らなかった。

今までは、力さえあればなんでも出来て、解決できるんだと思ってた。


喧嘩で勝てば、男も女も関係ない世界になるって勝手に思ってた。

私を邪魔するやつは潰せばいいって思ってた。

でも、ずっとそうだった。昔から何を言われても春陽だけはバカなこと言ってるなぁって思えたんだ。

でもいつかは、邪魔になるんだろうなと思ってた。


でも、違った。

愛だけは、好きになることだけは、力だけじゃなくて愛情が振り向かせるものなんだって。


「ずっと変わらず私はあなたのことが大好きです」


振り向かせてみせるから待っててね。春陽。




私の恋愛の戦いは、まだ始まったばっかりだ。

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