最終話 龍が守る星

 「いや、我々はまだ学生の身だよな?」

 「そうなんだがな、出来て孵化したんだ」

 「子猫が生まれたみたいなノリで龍とは増えるものなのか?」

 「猫が伸びて龍になるとかもあるらしい」

 「何でもありだな、君の所は」


 二年生になっても、クラスの委員長に選ばれた委員長。


 本名の、飯盛鋼ノ介めしもり・こうのすけと呼ばれる事がますます減った男。


 立磨の春休み中の出来事を聞いて呆れる。


 座敷童の伴侶がいる委員長だが、こちらはまだまだ二人きり。


 「……お前さん、これだから妖怪の類はって言われる奴だぞ?』


 自分が雪女と人間のハーフな徹。


 雪女も愛の重い種族、徹の父も母親に愛を押し通されたタイプ。


 なので徹の実家も兄弟が多く、両親のラブラブ度合が立磨と近くやれやれと溜息。


 「しかし、人生飛ばし過ぎっしょたっつん?」


 春休みの間、立磨とジンリーの間に子供が生まれた事に愕然となる虎吉。


 「うん、日高君はおめでとうこれからが大変だろうけど」


 立磨から力を貰い、準身内なポジの伸長は一応祝うが苦笑い。


 「うん、まあ皆のその反応は間違ってないよな」


 二年生の初めの新学期、登校した教室で友人達の苦い顔をする立磨。


 「まあ、これから責任が重くなるが頑張るんだぞ?」 

 「同じ事をお姉さんからも言われたよ、ありがとう」


 女子友であり師匠の妹である垣花ゆかりからの言葉に頷く立磨。


 「大変そうだよね、でもおめでとう♪」


 女子友の春原さんは普通に祝ってくれた。


 他のクラスメートは、立磨を遠巻きに見てヒソヒソと話してる。


 「皆、席に着いてくれ? ホームルームを始めるぞ」


 今年も立磨達のクラスの担任となった、クリス先生が教室へと入って来た。


 「君達も二年生だ、後輩達の範となるよう学業に実戦に励んでくれ」


 クリス先生の言葉に黙る生徒達、自分達の後輩が入って来る。


 入学式では、装備科や経営科など他の学科にも新入生が来ていた。


 ホームルームや授業を終えて昼休みの廊下。


 「他の学科とはいえ、戦えない奴はいないみたいだから心配だな?」


 委員長は気難しい顔になる。


 「元気いっぱいな後輩達が、ヤンチャしそうっしょ♪」


 問題を起こしそうな虎吉は気楽な構え。


 「これからも色々と面倒くさいな、くわばらくわばら」


 徹は憂鬱そうな顔になる。


 「まあ、力を合わせて上手くやろう?」


 伸長は乾いた笑いを浮かべながら、仲間達と学食へと向かう。


 「だな、んじゃ俺は中庭で弁当だ」


 友人達と別れて立磨は一人、弁当箱を持って中庭へ出る。


 「さて、ジンリーの弁当をいただきますか」


 周囲を警戒しつつ、中庭のベンチで持ってきた弁当箱を開ける。


 一年の時は重箱だったが、コンパクトな弁当箱一つ。


 「中身は一見ただのチャーハンと焼売だが、あいつの想いが圧縮されてる」


 弁当箱一つに愛と栄養とカロリーが、数十キロ単位で圧縮されていた。


 「チャーハンも含めて五十キロの重さ、俺以外には食えないな」


 特注の食器で、ガツガツと全力で食い切る立磨、


 「ごちそうさま♪ ここ最近は悪の組織も大人しくてありがたいぜ」


 ダークカルテットも、クライゾーンとバンクラーが倒れて半減。


 チョッパーと凶星忍軍は、フロートシティでの活動は激減していた。


 「まあ、どうせ新しい悪の組織が出て来るだろうな」


 食事を終えてジンリーに電話で連絡を入れる。


 「はい、あなたの相思相愛な妻のジンリーです♪」

 「うん、お弁当美味しかったよジンリー♪ いつもありがとう♪」

 「……ぶはっ! 尊すぎて、鼻血がっ! 恋愛テロですかっ!」

 「いやちょっと待て、普段から普通に会話してるだろ?」

 「これはもう、三人目以降も誕生する流れですね!」

 「ちょ! 電話口から覚悟決めたオーラがっ!」

 「夕食はスッポンを捌きますのでお覚悟を♪」

 「いや、ジンリー! ちょっと待て!」

 「それでは子供達を連れて魚市場へ、買い出しに参ります♪」


 地雷どころか核ミサイルのスイッチを押した立磨。


 子供ができて暴走度合いが増したジンリーと、帰宅したら怪獣ファイト確定。


 「一体俺はどうして、こうもフラグを立てて死に急いでいるんだろう?」


 龍の寿命は一万年とは言うものの、ゲージが凄い勢いで削られて行くのを感じる。


 死んでも蘇生させられるだろうし、生まれ変わってもジンリーは自分の隣にいる。


 立磨は未来永劫ジンリーからは逃げられないと確信し、同時に安心した。


 「まあ、絶対に離れる事のないヒロインがいるってのは感謝だよな」


 立磨は、空を見上げて自分こんな運命を与えてくれた天に感謝した。


 裏切られたり失うよりは、自分に対して激く愛が重い方が良い。


 自分はもうジンリーに染められているがそれで良いと思った立磨。


 休み時間の遊びに興じる後輩達を遠い目で見た後、教室へと戻る。


 立磨の。学業とヒーローと父親の三足のわらじ生活はこれからだ。


 午後の授業もつつがなく終えて下校する立磨、部活の勧誘などはスルー。


 「部活は良いかな、仕事とかあるし」


 ヒーローの仕事や家庭の事とかで部活をする気はない立磨。


 街の通りを事件がないか五感をフルに活用して探る。


 「去年とは段違いで悪の組織の怪人は出なくなったな」


 勝つも一時、平和は維持が大事だと思いつつ帰宅する。


 「ただいま」

 「お帰りなさいませ、ご主人様♪」


 事務所の住居スペースに入ると、白字で大きく『重い愛』と書かれたエプロンを付けたジンリーが笑顔のままノーモーションで移動して出迎えた。


 「いや、両腕広げて構えるなって?」

 「子供達は大龍宮の方で寛いでいますのでお帰りの抱擁とキスを要求いたします」

 「確かにあっちの方が湖があるからな、手洗いとうがいが先だよな?」

 「龍はバステ無効なので問題なしです、さあ愛する妻を抱きしめる時です♪」


 ジンリーの要求に応じ、彼女を抱きしめてキスをする。


 「じゃあ、金馬達に会いに行くか♪」

 「はい、参りましょう♪」


 ジンリーと離れ、家に上がり荷物を部屋に置いて着替える立磨。


 物置のドアに掛けてある札を裏返し、仙郷とのゲートを繋げてからドアを開ける。


 ドアの先は水墨画でみたような中華な山合と、海かと見まごう広大な湖。


 「金馬、立花、ただいま~♪」

 「パパが帰って来ましたよ~♪」


 立磨とジンリーが湖に向かい叫べば、湖面が波立ち二頭の黄龍が飛び出した。


 二メートル程の長さの二頭は、立磨の上半身と下半身に巻き付く。


 「ぐあっ! これが本当のドラゴンチョーク! タップ、タップ!」

 「私も巻き付き手宜しいでしょうか♪」

 「二人共、人化、人化!」


 蛇責めの刑の如く、龍の姿の子供達に締め付けられる立磨。


 子供達に人化を促すと、二頭の龍はポンと煙を上げて人間の赤ちゃんの姿になる。


 「よっと、金ちゃんはキャッチで立花は這い上がって来たな♪」

 「二人とも、元気に育っております♪」

 「この子達、市場で龍化しなかった?」


 立磨がジンリーに確認する。


 「はい、きちんと我慢させましたよ褒めて下さい♪」

 「うん、ジンリーは偉いよありがとう♪」

 「では、今宵は大龍宮へ参りましょうか♪」

 「そうだな、挨拶はしないと」


 立磨達が湖面に目を向けると、水中から城が浮かび上がる。


 立磨とジンリーが子供達と開かれた城門をくぐればジンファ達が出迎えた。


 「立磨君、お帰りなさい♪」

 「お義兄さん達、お帰り~♪」

 「おお、帰って来たか♪」


 ジンリンやジンチャオも出てきて出迎えてくれた。


 皆で城の中の廊下を歩いて食堂へと向かう。

 

 お高い中華料理店のような内装で、円卓が複数並ぶ広めの食堂。


 「今日はお姉ちゃんが捌いたスッポン鍋と茹で蟹だよ♪」

 「マジでスッポン捌いたんかい?」

 「ええ、マジですキリッ!」


 ジンリンの言葉に呆れる立磨とドヤ顔のジンリー。


 「はいはい座って食べましょうね、金ちゃんは私のお膝ね♪」


 ジンファが自分に飛んで来た金馬をキャッチし膝の上に乗せる。


 「では、私はご主人様の膝の上で♪」

 「うん、子供の前でボケは止めような♪」


 ジンリーと夫婦漫才をしながら席に着く立磨。


 「しかし、この子達は成長が早いのう♪」

 「離乳食通り過ぎてバリバリ、カニ食べてるんだよ」

 「ミルクも飲んでくれるのですが、好き嫌いなく食べてますね」

 「まだ生まれて一年にも満たないのにすごいな?」

 「戦いの時の霊力で、成長が促進されたんだと思う」

 「親類達も霊力を与えてましたからね」

 「いや、かわいい子にはパワーを与えよと言うじゃろ?」


 ジンリーがジンチャオを睨む。


 「まあ、この子達と周囲の日常生活の為にもパワー分離するアイテム作るよ」


 ジンリンが告げる。


 「ああ、リンちゃんは頼むぜ赤ちゃんに大怪獣クラスのパワーは危ない」

 「ですね、制御できない内は力を切り離しましょう」

 「急いで強くならなくても大丈夫だから、ゆっくりのびのび育ってな♪」

 

 子供達に微笑む立磨、食事をしつつ金馬達の力を制御する方針を相談する。


 「この子達がどんな風に育つのか、楽しみですね♪」

 「龍人拳法もしっかりと修行させるぞ♪」

 「この子達のヒーローデビューも、プロデュースするわ♪」

 「まったく、あなたが私よりステージママになってどうするんですか?」

 「お母さん、すっかり孫馬鹿になってるよ」


 金馬達が作る未来を楽しみにしつつ、食卓を囲み団欒をする立磨達であった。


 三日後の日曜日。


 立磨とジンリーは金馬達をベビーカーに乗せ、海岸通りの公園に来ていた。


 「天気も良いし海も穏やかだな♪」

 「はい、子供達も笑顔です♪」


 ジンリーが子供達を抱っこし立磨の隣でベンチに座る。


 平穏な時間は、海から飛び出した闖入者に破られた。


 「我が名はチョッパー大幹部ライオンゴールド、貴様がドラゴンシフターだな?」


 金色のライオン怪人が立磨を指さす。


 「その通りだ、ドラゴンシフトッ!」


 ベンチから立ち上がり素早く変身する立磨。


 「さあ、今日は我が子の前での変身ヒーローデビューだ!」

 「頑張って下さいね、ご主人様♪」

 「だ~っ♪」

 「あぶ~っ♪」

 

 ジンリーと金馬達の応援を背に受けて、ドラゴンシフターは怪人達へと駆け出す。


 「おのれ、ドラゴンシフター! 貴様達に殺された同胞の怨みぃっ!」

 「悪いが今日は、お前ら悪党どもに使う尺はないっ!」


 まずはドラゴンシフターが中段突きで相手をくの字に曲げる。


 「馬鹿な、チョッパー大幹部であるこの私がっ!」

 「バフがマシマシなんだよ全力の一撃で決める。ファンロンエルボーッ!」


 金色の龍のエネルギーを纏ったドラゴンシフターの肘打ちが唸る。


 ライオンゴールドは直撃を受けると共に、エネルギーに飲み込まれて消滅した。


 「良し、事件解決♪ さあ、家族の時間だ♪」


 変身を解き家族の元へと戻る立磨。


 家族や友人達と暮らすこの星を守る為、ドラゴンシフターの戦いは続く。


                                 完

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