第61話 春来たる

 「まさか、祝勝会の後すぐに生まれるとは思わなかったよ」

 「あらかじめ備えていたので問題なしです、キリッ!」

 「いや、キリッ! じゃないからな?」

 「母などは、私を産んですぐに樽酒を飲み干しましたよ♪」

 「いや、ジンファさん何してんの? お義父さん止めなかったの?」

 「それに比べれば、私を案じてじてくれるご主人様の優しさが心地良いです♪」


 産後だと言うのに平常運転なジンリー、龍の頑丈さは並ではなかった。


 仕事は休みなので、スーツではなく黄色のカンフー着でラフに過ごしている。


 立磨も黄色のパーカーに、緑のストレッチパンツと私服姿だ。


 恐怖の大王との戦いの後。


 祝勝会に出産祝いと、宴会漬けの大龍宮から抜け出して帰宅した立磨達。


 報せを聞いたジンリーの親戚達が集まり、酒や料理を持ち込みと盛り上がった。


 未成年の立磨と産後のジンリーは、酒飲みの集まりから抜け出す。


 幸いにして帰って来たら事務所が爆破されていた、と言う事はなかった。


 学校がまだ春休みなので立磨もリビングで、抱卵ほうらんに勤しむ。


 ソファーでジンリーと並んで座り、卵を抱きながら語り合う立磨。


 生まれてきた卵達を見て、改めて自分が龍であると実感する立磨。


 「うん、確かな温かみを感じるよ♪ 生きてるんだな卵でも♪」

 「この子達もあの戦いの、勝利の立役者です♪」

 「ユニバーマンさん達や他の神族が、敵兵の群れを相手してくれたのも助かった」

 「宇宙に出た敵兵の群れが、恐怖の大王のパーツでもあったとは恐ろしい」

 「うん、敵兵が全部地球に来て完全合体してたら俺ら卵を抱けてなかったな」


 立磨とジンリー、それぞれが卵を抱きながらその命の熱を感じ取る。


 敵のコアを叩きに行ったから立磨達でも倒せた。


 宴会中に連絡してきた関羽から聞かされた話を思い出す二人。


 「何はともあれ勝てば良しですよ♪」

 「いや、まあ結果オーライなのはそうだけどな?」

 「湿っぽい話はやめましょう、卵に悪影響が出ます♪」

 「いや、お前本当に調子が良いなあ?」


 笑顔で反省を終わらせるジンリーに、立磨は苦笑い。


 だが、ジンリーの言う事もわからんでもなかった。


 次にどんな戦いが待ち受けているのかもわからない。


 平和な時間と喜びは、享受できる内に享受しておく。


 次の戦いで心が折れぬように希望をチャージ、休むのも仕事の内。


 「人間態で卵を抱いて霊力を注げば、人化した状態で孵化します♪」

 「マジか、そうしたら届け出とかしないとな」

 「中国の方の系列病院で行います」

 「宜しくお願いします♪」

 「はい、お任せ下さい♪」


 ジンリーと、卵の事や孵化してからの事を語り合う立磨。


 「しかし、流石に満漢全席百回は食べ過ぎましたね反省します」


 宴会で食べ過ぎて、太ってしまったことを悔むジンリー。


 「いや、包容力のある抱きしめ甲斐のある姿だよ♪」


 立磨はジンリーに微笑む、クール美人なジンリーも好きだが温和な感じも良い。


 「天にも昇る心地良さですが、子供の保護者会で舐められないように痩せます!」

 「いや、早過ぎるだろ?」

 「日本の幼稚園か、中国かどちらにしましょう?」

 「えっと、名前すらまだなのに?」


 食べ過ぎでふっくらした体形となった自分を戒めるジンリー。


 ママ友と言うライバルに備えて、脂肪を燃やそうとジンリーは心に決めていた。


 「ママ友と言うのは何処の国でも戦いが激しいのですよ?」

 「いや、保護者会が格闘技の大会みたいだな?」

 「母曰く。貴族学校の保護者会はバチバチだったそうです」

 「争いは何処でも生まれるもんだな」

 「悪の組織以外にも、勝たねばならぬ戦いが待っているのです」

 「まあ、対人関係は気を付けようって事だな」


 相も変わらず立磨はジンリーと夫婦漫才を繰り広げる。


 「ジンリー? お前は心根も姿も綺麗だよ♪」


 立磨はジンリーの心を落ち着けようと優しく甘く言葉をささやく。


 「ぶはっ! 何ですかいきなり! 私、幸せ過ぎて七孔噴血しましたっ♪」


 だが、耳目と鼻から血を流し出したジンリーには真逆の効果だった。


 良かれと思ってやった事が裏目に出る立磨、フローリングの床が血に染まる。


 「いや、ちょ、部屋が事件現場になってるっ!」


 自分の言葉が招いた事態が信じられない立磨。


 「……ご主人様、卵が兄弟姉妹を欲しがってます♪」

 「いや、血まみれの顔で嘘言うな! 掃除、掃除!」

 「後で業者を呼ぶので無問題です、さあ更なる家族計画を♪」

 「いや、そう言うムードじゃないだろ? 卵の教育に悪いからな?」

 「両親の夫婦仲が円満で、愛し合う姿を見せる方が子供には教育的です♪」

 「いや、目が野獣になってる顔で言う台詞じゃねえよそれ!」

 「ご主人様には、父親としての責任を取っていただきます!」

 「ちょっと待て、鼻息が荒い!」


 語り合いつつ、同じタイミングで立ち上がり卵を安全な場所に置く二人。


 ジンリーは目を光らせながらにじり寄り、立磨は後ずさろうとする。


 「取り敢えず、安静にしないとな?」

 「正当な権利として、夫婦のラブラブタイムを要求します!」

 「いやまずは顔を拭け、そして血まみれのリビングではやめよう!」


 闘牛場の闘牛のように鼻息の荒いジンリー、スイッチが入っている。


 このままでは自分は、モンスターにひと狩りされてしまう。


 立磨はどうにかして、ジンリーをなだめようとしていた。


 両親がこんな茶番劇を繰り広げる家庭なら、子供は退屈しないだろう。


 立磨が突進して来たジンリーを受け止めて、相撲のように組み合う。


 「抱き合う二人、見つめ合う瞳♪ そして二人は結ばれる♪」

 「いや、俺達はもう結ばれてるでしょ?」

 「子沢山な明るい家庭に向かって、電車道と参りましょう♪」

 「うおっ! 後ろに寝室へのゲートが開いてる!」


 土俵際に追い込まれた立磨、ジンリーの気持ちはわかるが主導権は渡せない。


 「はいはいはい、二人共ストップで?」

 「ちょっとジンリー、床が血まみれじゃない!」


 立磨とジンリーのファイトに、虚空から止めに入る者達が出現する。


 ジンリンとジンファがやって来た、ジンリンは白衣でジンファは金チャイナ。


 「むむぅt、これからいい所だと言うのに! 出ましたね妹と、酔っ払い!」


 ジンリーが立磨から離れる。


 「孫が孵化するんだから、めでたいんだしそりゃ飲むでしょう♪」

 「……お母さん、駄目な人の台詞だよ?」」

 「で、何しに来たんです?」


 ジンファを邪見にするジンリー、酔っぱらいはNGだ。


 「良いじゃない、立磨君は酒の肴♪」

 「否定はしませんが、スルメでも嚙んでなさい」


 ジンファの言葉にツッコむジンリー。


 「私は未成年だから、宴会場から逃げて来たんだよ」


 ジンリンは溜息を吐く。


 「ちなみに今、何次会してるの?」

 「十次会位かしらね? 立磨君も来る?」

 「いや、コンプラ守りましょうよ?」


 立磨がジンファにツッコむ。


 「ん? お義兄さん達、そろそろ卵達を大龍宮へ運んで!」


 ジンリンが卵を見て何かに築く。


 「え、マジで?」

 「仕方ありませんね、お祖父様にも立ち会わせましょう」

 「家の両親はどうする?」

 「大丈夫、私がお招きしてるわ♪」

 「よっし、じゃあ行こう♪」

 「ええ、お披露目です♪」


 立磨とジンリーが卵を抱えて、ジンリンが開けたゲートをくぐる。


 「おおお、戻って来たか♪ 卵を特等席に♪」


 ジンチャオが笑顔で、大龍宮にある宴会場に戻って来た立磨達を迎える。


 立磨の両親やジンリーの親戚達も、特等席に置かれた卵達を笑顔で見守る。


 数十秒後、バキバキと卵の殻にひびが入り内側から殻が破られる。


 元気な鳴き声と共に、人間の体に金色の龍の角と尻尾を生やした龍人。


 とでも言うべき形態で、男の子と女の子の赤ちゃんが誕生した。


 「「おめでと~~~っ♪」」


 赤ん坊の泣き声に負けない音量で、祝福の叫びが上がる。


 「おお、やったぜ元気に生まれて来てくれた♪」

 「ええ、流石は未来の龍王です♪」


 立磨が息子を、ジンリーが娘を抱きあげる。


 「曾孫じゃ~~~~っ♪ 出かしたぞ二人共~っ♪」


 ジンチャオが、自分と親友の双方の血を引く赤ちゃん達を見て涙を流す。


 親戚の龍達も、立磨の両親も感動して泣きだした。


 「ジンリー、笑ってるけど泣いてるな♪」

 「お互い様ですよ、ご主人様♪」


 我が子を抱く立磨達も笑顔で涙を流す。


 「去年はヒーローデビューして、今年は父親デビューだな♪」

 「私も母親デビューです♪」

 

 立磨とジンリーは微笑み合うが、流れる涙は止まらない。


 「はいはい、めでたい日なんだから泣かない♪ 酔っぱらいは酔いを醒まして♪」


 自分も泣いている癖にジンリンがパンパンと手を叩く。


 「そうね、私もお祖母ちゃんデビューか♪ まだ十七歳なのに♪」

 「お母さん、酔いを醒まさないと抱っこさせてもらえないよ?」


 ジンファがボケるも、ジンリンにツッコまれる。


 立磨達の次に赤ちゃんを抱いたのは、立磨の両親。


 「まさか、こんなに早く孫を抱けるなんて」

 「早すぎるけれど嬉しい、ありがとうねジンリーさん♪」


 黒スーツに眼鏡をかけた真面目そうな顔の中年男性である立磨の父。


 温和な顔で太めの体型な立磨の母。


 いきなり招かれたので、白ワンピの上にピンクのエプロンと言う家庭での姿だ。


 「ありがとうございます、素晴らしき偉大なお義母様♪」


 自分の母親とは違い拱手礼をして、礼儀正しく立磨の母に接するジンリー。


 「うん、父さんと母さんには何と言うか受け入れてくれてありがとう♪」


 立磨もこんな状況を受け入れてくれた両親に礼を言う。


 「お前がヒーローになった時から、もう慣れたよ♪」

 「婿にやったとはいえ、私達の事も頼って良いんだからね♪」

 「……うん、ありがとう♪」


 再び、両親に礼を言う立磨。


 「うんうん、こうして両家の結びつきが強まって何よりじゃ♪」


 ジンチャオも微笑む。


 「そう言えば、子供達の名前は決まってるの?」


 ジンリンが立磨に尋ねる。


 「ああ、俺とジンリーとから一字取る♪ 男の子は日本語読みは金馬きんま

 「娘は日本語読みで、立花りっかですね♪」

 「金馬ジンマー立花リーファかあ、良い名前だよ♪」

 

 ジンリンが中国語詠みで呟く。


 立磨とジンリーが、それぞれ子供達の名を告げると盛大な拍手が上がった。


 「よ~~~しっ♪ この子達へのご祝儀大会じゃ~っ♪」


 曾孫達の誕生にジンチャオが叫ぶ。


 「いや、皆さんありがとうございます♪」

 「この子達も喜んでます♪」


 親戚達に礼を言う立磨とジンリー。


 生まれたばかりの金馬と立花は、親戚達から大盤振る舞いで贈り物を授けられた。

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