第5話 オーランの特技
ダンジョンに入ってから三時間は経とうとしていた。魔術の灯りの照らされたダンジョン内は、天然の洞窟ような光景が広がっている。天上はそこそこに高く幅も広い。
ルーファスが剣を振り回しても大丈夫なくらいの広さだ。
「ここまで何もないな」
先頭を歩くルーファスが言う。五人は彼を先頭に、ゼフィア、ダガート。最後にメラニーとオーランが並んで歩いていた。
「分岐も少ないし、ハズレかもね」
手元の鑞版を見ながらゼフィアが言った。鑞版には線が引いてあった。これまでの簡易的な地図だ。
「ダンジョン内の
「その割には魔鉱石も魔草もないのう」
オーランの言葉を受けてダガートが言う。魔鉱石とは
魔草は同じく
「それどころか魔物とも出会わない。まぁこっちは楽でいいが」ルーファスが言う。
迷穴型のダンジョンには独自の生態系が築かれていることが多い。外の世界ではあまり見かけない魔物は珍しい素材になる。
「
「ダンジョンの中だと無理かな」メラニーの問いにオーランが答える。「迷脈の
「なら外にいる時は? ダンジョン見つけるついでに鉱脈があれば、魔鉱石もあるんじゃないの?」
「それこそ無理だな」
今度はオーランの足元から別の声が聞こえた。ファルサだ。
「お前ェも
「だからこうやって調査するんだしね」ファルサの言葉をオーランが継ぐ。
「あなたいたんだ。いままでずっと黙ってたから外にいるのかと――え?」
声のした方を見てメラニーが絶句する。オーランの足元にいたのは黒い鳥ではなく、黒い猫。だがそこから聞こえて来る声はファルサのものだ。
「なんだ小娘」
「あなた鳥じゃなかったの!?」
「俺様は変幻自在なのさ」
そう言ってファルサは頭を上げ、得意気に胸を張る。
「なにそれ!? 使い魔が主人以外と喋るってだけでも驚きなのに、本当にあなた
「ああ、そりゃ――」
「僕はしがない探知師さ。魔術師のなりそこないだよ」
ファルサの言葉に被せるようにオーランは言った。
「それよりも君は気づいてる?」
「え? 何に?」
「
言われて、メラニーは軽く目を閉じる。そしてすぐに開くとオーランを見た。
「……奥に向かって流れてる?」
「うん。迷脈とは別に流ができてる。まるで――」
「集めてるみたい」
「ルーファス!」
「どうした、オーラン?」
先頭を歩くルーファスが足を止めて振り向く。
「
「わかった。少し速度を落とすぞ。ゼフィア、斥候を頼めるか?」
「任せて。メラニー、あなた
「使えるけど……あまり得意じゃないの。
だからお
メラニーが申し訳なさそうに言う。彼女は俯いて唇を噛んでいた。自分は祖父の代わりとしてこのパーティに参加しているのだ。同じ事を求められる覚悟はしていた。だが、これまでの失敗がメラニーを萎縮させていた。
「謝ることはない。初日に言ったろ? シェリダンの孫だからって、同じ事をしなくてもいい」ルーファスが明るい声で言う。
「でも、パーティとしてのやり方が……」
「新しいメンバーが入ったんなら、それに合わせて変えていくだけだ。それに――」ルーファスは笑顔を向ける。「お前はまだ若い。これから色々な経験を積んで自分なりのやり方を目指せばいい」
「ルーファス」
メラニーは顔を上げて、驚いたようにルーファスを見る。
「そうそう。できないことをできないって言うの、大事よ。そうすれば別の方法を考えられるんだから」ゼフィアがウインクをしてみせる。
「人には得手不得手があるからのう」ダガートが頷く。
ルーファスもゼフィアもダガートも、誰も彼女を責めてはいない。今までの参加したパーティのように文句を言ったりはしない。祖父と比べたりはしない。
メラニーの目の回りが熱くなった。
「今回はオーランもいるし、彼にお願いしましょう。いい?」
「ああ。ゼフィアちょっとこっちまで来て」
ゼフィアがオーランの近くまでやってくる。オーランは腰の後ろに刺していた
糸がその輝きを増した。オーランが杖を振ると糸がいくつも伸び、ゼフィアの目をへと向かう。途中で糸は杖から切り離されると、互いに絡み合い細長い、小さな布の様な形を作る。
その布がゼフィアの両目を目隠しのように覆った。刹那、光が消え、
「うん。バッチリね」
進行方向の先、暗いダンジョンの向こうを見ながらゼフィアが頷いた。
「ちょっと行ってくる」
そう言ってゼフィアは足音を立てることなく暗闇の中へと消えていく。
「あなた……何をしたの?」
メラニーが慌てたようにオーランを見る。先程まで感じていた感情は吹き飛んでいた。
「
「強化した……ってあなた。
魔術が効果を現すには呪文によって
「こいつはな
「それって呪文がいらないって……あ」メラニーが何かに気づく。「もしかして宿屋で言っていた企業秘密って、これのこと?」
「そうだね。ダンジョンの中くらい
そう言って、オーランは寂しそうに笑った。彼にとっては知られたくないことだったのだろうか? そう言えば宿屋でファルサの言葉を遮っていたのをメラニーは思い出す。
「なんかごめんなさい」
「え?」
謝られたオーランは不思議そうな顔をした。
「だって、知られたくなかったんでしょ? 宿屋でファルサの言葉を遮ってたし」
「ああ」オーランは彼女がなぜ謝罪したかに気づく。「あればファルサが余計なことまで言おうとしたからだよ。
「そう……」
それ以上何も言えず、メラニーは黙った。そこへ興奮気味な面持ちでゼフィアが帰って来る。
「みんな、なんか変なのいたわよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます