第59話 魔力濃度の高め方と、そのアテ
「魔力を与える方法があるんですか?」
「ええ。まあ方法としては土壌改良になるのかしら? モンスターから取れる魔石を粉末化したり、魔力を吸い込んで溜め込む性質のある植物を育てて、土に混ぜたりするのよ」
「なるほど。そういえば以前エアが魔石を売ってたな」
モンスターから襲撃を受けた時の話だ。ずいぶんと前だし、モンスターの素材そのものを売り渡してしまったから、個別にはどれぐらいのものが手に入ったのか渡は把握していないが、そういう存在があったのは覚えていた。
「植物の方はタメコミ草ってのがあって……これこれ、これよ」
受付のおばちゃんが実物を見せてくれる。
こういうところは豊富な素材が集まるギルドの利点だろう。
背の高い草というか、シダ植物を思わせる外見だ。
「タメコミ草は育つ過程で魔力を吸収していくの。こういうのを刻んで土と混ぜると、まあ魔力が馴染んでくれるわけ」
「土に混ぜたあとに揮発したりして、薄くならないんですか?」
「それがねえ、草自体に吸収した魔力をとどめておく働きがあるから、普通だとなかなか薄まらないの。でも薬草みたいな他の吸収する植物の阻害することはないわけ」
おばちゃんが得意げに言ってくれて、理解できた。
なるほど、渡が求めている条件にピッタリ当てはまっている。
「これって普通に手にはいるんですか?」
「ええ、まあ薬草ほど安いわけでも量が多いわけじゃないけど、普通に販売してますよ。とはいえ、魔力の豊富な場所っていうのは、基本的に誰にとっても欲しいものだから、タメコミ草があるからと言ってそう簡単に栽培できる方法じゃないんだけどねえ。それなら、もとからそこで薬草を栽培させれば良いわけだし」
「それもそうですね。魔力の豊富な場所か……」
神社や寺でなくても、大昔から似たような概念は存在していた。
龍穴や気場、霊場、あるいはパワースポットなど、様々な呼び名はあるが、これらは同一のものを指している。
あるいは京都での風水、陰陽道など、呪術的な観念で土地が定められたりと、地球でも魔力の豊富な場所は推測できるかもしれない。
「ああ、でも場所に見込みがないわけじゃないので、少し多めにもらえますかね?」
「あなたも変わった人だねえ。まあこっちは商売だから、いくらでも持って行ってくれて構わないんだけど」
「ありがとうございます。ついでにできたら追加補充もしていてください」
「まったく何に使うんだか」
「別に誰はばかることなく、健全に使いますよ」
受付のおばちゃんに呆れられながらも、渡は多量のタメコミ草の株を販売してもらった。
ひとまず、万が一の他の人からの注文で困らない範囲で、在庫からすべて出してもらう。
渡は礼を言って、ギルドを出た。
ギルドを出て、まっすぐに倉庫に向かう。
鼻歌を歌いそうなほど上機嫌な渡に、マリエルたちは不思議そうに眺めていた。
まったく、問題が全部解決しそうなのに、気付いていないんだろうか。
「ご主人様、とても上機嫌ですけど、地球にそんなに魔力のある場所をご存知なんですか?」
「いいや、まったくないよ」
「じゃあ、もしかしてアタシたちから魔力を与えるとか?」
「い、嫌ですわよ。多少ならともかく、大量に魔力を与えたらとても疲れるんですから」
「そんなつもりはないよ。そもそも魔力を吸収させても問題ないどころか、むしろ好都合な場所があるだろうが。北の魔力災害を起こしてる、古代遺跡だよ」
濃密すぎる魔力によって、エアでさえ長時間は滞在できない恐ろしい場所。
タメコミ草がどれほどの魔力を吸い込むのかは知らないが、それほど魔力の濃密なところならば、すぐにでも吸収してくれることだろう。
問題は魔力が濃すぎて、生育に何らかの害が現れないかだが、それも土に薄く混ぜれば、害を最小限に抑えられるはずだし、事前に薬師ギルドに検査してもらえば良い。
「ご主人様に言われてみれば、あれほど条件として優れた場所はありませんね」
「だろう? それにあの祠もそろそろ手入れしておきたかったんだ」
「じゃあ一度王都に飛んで、そこから北にって感じ? アタシとクローシェがタメコミ草の作業をして、主とマリエルが祠の清掃をしたほうが良いと思うよ」
「うう……あそこ怖いのですよね。とんでもないバケモノがいてそうで」
尻尾をクルクルと丸めて、クローシェが嫌そうな顔をした。
異常な魔力に当てられて変質した、超常の生き物が生息しているようだし、かなり危険なのは間違いない。
「タメコミ草を植えるのはゲートすぐ側でいいと思う。祠自体も魔力が強すぎて問題が起きているようだし、周りの魔力濃度がほんの少しでも減るなら、それに越したことはないだろう」
「アタシも賛成かな。あーあ、遺跡の貴重なお宝は興味あるんだけど」
「エア、俺はエアに万が一のことがあったらすごく悲しい。だから今は無理はしないでくれ」
「う、うん……わかってるよ。言ってみただけ」
「フフフ、では、先に掃除道具を倉庫から持ち運びましょうか」
「お、お姉さまが乙女の顔をしていますわ……!? ムグググ、悔しいですわ!」
顔を赤くしてもじもじしたエアを、楽しそうにマリエルが眺め、クローシェが歯ぎしりしながら悔しがる。
危険な場所に赴くと分かっていながらも、一行の態度はいつもと変わらずにあった。
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久々の更新でたくさんのコメント、レビューいただき、ありがとうございます!
本当に少しずつポーション製造の土壌が整ってきました!(文字通り)
これからもっと加速していきます。
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