第14話 祠探し②
マリエルが抜けた後、渡はエアとクローシェの三人でまずは昼食を取った。
こちらの世界は色々と刺激的だが、米が食べられないのが不満の一つだ。
あとパンがパサパサで固いのだ。
イースト菌や膨らまし粉を早急に流通させたいと渡は思った。
マリエルやエア、そしてクローシェの反応を見る限り、特に大きな不満が見られるわけではないので、特別に不味いということもないのだろう。
麦食文化の地域と米食文化の地域では、唾液腺の発達が違うと言われている。
パンはパサパサとしているために、渡の口に合いにくいのかもしれなかった。
「さて、じゃあ祠探しの続きと行こうか」
「わたくしにお任せくださいな! きっと見つけてみせますわ!!」
「おお、自信満々だな。頼むぞ」
「とはいえ、どういう場所なんでしょう。それも分からないと探しづらいです」
渡はスマホを取り出すと、祠の写真を見せた。
スマホを見てクローシェが仰天する。目を見開いて凝視していた。
「な、なんですかこれは!? あなた、平凡そうに見えてもしかして魔術師でしたの!?」
「あー、このやりとり懐かしいな。最初にマリエルにも言われたんだよな」
「アタシも最初は魔術師だと思ったよ。考えることはみんな一緒だねえ」
「俺はクローシェが言うように、ただの凡人だよ。ただどういうわけか、転移魔術の祠を利用できただけの異世界人だ」
「異世界人!? ちょ、ちょっと待ってくださいまし。異世界人ってわたくし、どういう人の奴隷になりましたの!?」
クローシェの驚きは前に似たような反応を見ていただけに、懐かしさすら覚える。
ほんの二ヶ月前の出来事だというのが信じられないくらいに日々が濃密だ。
「これが魔術ではないなんて。おかしな話ですわ。まるで騙されてるみたい」
「主の住んでる街を見ると、ビックリするよ。クローシェも連れて行ってもらえるから、楽しみにしてると良いよ」
「その辺りは追々知ってもらった方が良いだろう。まずは兎にも角にもゲート探しだ。祠を見つけるぞ」
今はマリエルがいないから、再合流するまでに場所だけを見つけておきたい。
ゲートの移動先については、全員が揃ってから行う予定だった。
○
探索を初めて二時間。
クローシェの案内に従いながら街をウロウロとした。
だが、祠は見つからない。
最初は自信満々だったクローシェの表情が少しずつ曇り始め、不安そうになっていく。
周りをじっくりと確認しながらの移動だったので、移動速度自体が大したことないのも大いに関係していた。
「おかしいですわ……どうして見つかりませんの!? たしかにこの辺りから怪しい感覚がビンビンと感じておりますのに!」
「さっきまでの自信満々だったのに、笑える」
「お姉さま、わたくしはまったく笑えませんわ! 感覚の鋭さがわたくしの自慢ですのに!」
「まあ、それも仕方ないかもしれないな」
「どういうことですの?」
エアの発言にクローシェはムキになって答えた。
よほど自信があったのか、見つからないことにかなり余裕を失っている。
渡は転移陣の描かれた祠について説明した。
種族的な能力や直感で見つかるような人除けなら、もっと利用者が多くてもおかしくないだろう。
神々の対策にそんな分かり易い抜けがあるとは思えない。
「そんなのどうやって見つければ良いというのです!?」
「だからこそ探すのが大変なんじゃないか。ただ、クローシェの感覚も頼りにしてる。おおよその場所と方向が分かるだけでも十分だよ」
「く、悔しい……悔しいですわ!!」
「よちよち、無様で可哀想でちゅねえ」
「ムキー!!」
顔を真赤にしてエアに襲いかかるクローシェだが、軽くいなされている。
エアはとても楽しそうだ。
幼馴染と会えて気分が昂ぶっているのだろう。
いつもよりもおふざけの度合いが強い。
「エア、そろそろそれぐらいにしておけよ」
「はーい」
「ふぅ、ふぅ。もう、お姉さまこそ探されてはどうですか?」
「アタシは主の護衛だから! そういうのはアタシの仕事じゃないし。護衛しながらなら、探すけどね」
エアの発言にクローシェは不満そうな顔をしたが、渡はなんとも思わなかった。
もとよりエアは護衛目的で購入した奴隷だ。
自分の責任範囲でしっかりと働く意欲があるなら、何も言うことはない。
実際、今もクローシェがいながらも、エアは自分一人のつもりで、護衛の働きを万全を期して行っていた。
「あっ、これではありません!?」
「おお、たしかにそれっぽい。確かめてみよう。クローシェでかしたぞ!」
「あ、頭をそんな……撫でないでくださいまし」
「主、アタシの後ろに。クローシェは警戒」
「っ!? わかりましたわ!」
それからさらに探し始めて、表通りから裏通りにまで探索範囲を広げ始めたところ、ついにそれっぽい建物をクローシェが見つけた。
頭を撫でられてブンブンと尻尾を振って喜ぶクローシェだったが、不意にエアが渡の前に立った。
誰かがいる。
――――――――――――――
作中時間でまだ二ヶ月しか経ってない。
もうちょっと巻で進めたいところです。
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