第15話 最終話 本物の見抜き方

『──あれから一週間が過ぎましたが、本当に早いものですね。

 私は、今事務の仕事をしております。小さな会社ですが、とても優しい皆さんと一緒に働かせていただいています。


 彼、中田優一のことは覚えていらっしゃいますか? あの時は、私を教会に泊めて下さりながら、彼を探すお手伝いまでしてくださって、本当にありがとうございました。そして大変なご迷惑をおかけしました。


 彼も執行猶予しっこうゆうよをいただくことになり、明日島根に帰ってくることになりました。


 これから彼と上手くやっていけるかどうか、とても不安ですが、美羽さんと海原さんのような信頼関係を築けるように頑張りたいと思います。


 早く海原さんの誤解がしっかり解けて、美羽さんが心から安心されることを祈っていますね。またいつかお会い出来る日を楽しみにしています。


 それでは、またお手紙を書かせていただきたいと思います。どうぞお体をご自愛じあいくださいませ』



 短い手紙ではあったが、文章からは、真夢の幸せそうな顔が見えてきそうだった。

 美羽が二枚目の手紙をめくると、そこには島根で働いている会社の前で撮った写真が添付されていた。そこには、真夢が幸せそうな満面の笑みで写っていたのだった。




 美羽が窓辺に近づくと、秋の贈り物、金木犀きんもくせいの香りが風と共に部屋にふわりと舞い込んできた。


 一週間前に裕星がライブで歌ったソロ曲を思い出し、美羽は新しいアルバムのCDをデッキにセットすると、添えられていた歌詞カードを見ながら覚えたての歌詞を口ずさんでいた。


 それはとても美しい詩で、愛する人がいる者の心にそっと寄り添い、そして、信じることの大切さを教えてくれる、そんな歌詞だった。


 美羽はCDの裕星と一緒に歌いながら幸せを噛み締めた。そして願っていた。いつしかこの歌のように、世界のみんなが互いに信じ合い優しさを持ち寄れればいいのに……と。







『Believe My Love』作詞作曲 海原裕星



 昨日 色のついた夢を見た

 君は微笑んで そして泣いていた

 忘れないで僕がいつもここにいることを


 雨の中 傘もささずに 歩いていた

 あの日 君が出ていったまま 時は止まった

 忘れないで僕がいつもここにいることを


 変わらぬものなどないと 君は言ったけど それは嘘だ 僕はあの時のままここで待っている


 君のいない夜は いつもより真っ暗で 星も月も 地球さえも悲しんだ


 変わらぬ愛などないと 君は言ったけど それは嘘だ 僕はあの時のまま君を愛している


 同じものは二つとない それは本当だ 僕の心は 君でいっぱいだということも

 たとえ君が何に姿を変えても 僕には君が分かる 心の目で見ているから


 たとえ僕が何に姿を変えても 君への愛は変わらない 僕の心が愛しているから


 きっと見つけ出せる 幸せの星を

 君は見つけてくれる 本当の僕を

 真っ直ぐ伸びたこの光を辿れば

 僕の真っ直ぐな愛に辿り着くから


 やがて海から新しい光が生まれる

 毎日生まれ変わる一日を 二人で生きよう

 信じているから 人は生きられる

 愛しているから 人は信じられる


 昨日見た夢を 隣で眠る君に伝えよう 愛していると 何度でも君に伝えよう Believe my Love.









 すると、美羽のケータイがプルルと鳴って裕星からの着信を示した。美羽は急いでCDデッキの電源を切った。



「裕くん?」


 <ああ。昨日はやっとツアーの打ち上げも終わって、疲れ切って皆で事務所で雑魚寝ざこねしたんだよ。

 ――ところで、ライブが終わったら美羽に言いたいことがあるって言ってただろ?>



「あ、忘れてたわ! それって何? 良いこと? それとも……」


 <俺たち、ずっと忙しくて自分たちのことがおろそかになっていただろ? だから、今度こそ、二人でしっかりこの機会にこれからのことを話しておこうと思ってさ>



「―—も、もしかして……わ、別れたいとか?」

 美羽の声が震えている。



 <はあーっ? 馬鹿な! なんで別れなくちゃいけないんだよ! その反対反対! つまり、その……そろそろ一緒に住むことを考えようかなって……>




「ええ? 同棲ってことなの?」

 美羽はあまりにも驚いてケータイを落としそうになり、慌てて持ち直した。



 <今すぐって訳じゃない。美羽が大学を卒業してからの事だけどね。まぁ、帰ってから詳しく話すよ。とりあえず、昨夜のことを心配してるんじゃないかと思って連絡したんだ。驚かせて悪かったな>



「ううん。夕飯を作って待ってるね。――あ、それと、裕くんのソロ、本当に良かったよ。メロディがとっても素敵だし、歌詞は最高だし、声がやっぱり一番かな……。ううん、全部が素敵だった!」



 裕星はしばらく美羽の誉め言葉をかみしめるように言葉が出ずにいた。


「裕くん?」

 美羽に呼ばれて、我に返った。


 <……ということで、本物の俺のことは、美羽にだけはいつも分かってもらえるだろ? それだけで十分だよ。もっと美羽を近くに感じていたいから。いつか一緒に南の島に旅行しようか。それじゃ、帰ったら、その相談も、な>



「うん、楽しみにしてるね!」


 美羽は電話を切ると、部屋の壁に掛けられているモルディブの海のポスターを眺めた。先日、ふと立ち寄った本屋で見つけたものだ。


 美羽は、ベッドの脇に膝立ちをした。

「夢は願えば叶う。いつか本物の南の島への旅行、本物の青い海で泳いで、愛する人とこれからもずっと一緒にいられますように──」

 結びあわせた両手を解くと、胸の前で十字を切った。



 窓の上には、都内のせいか星は全く見えないが、唯一夜空にかかった半月の光と影が、まるでこの世の表裏一体ひょうりいったいを表しているようで、美羽は、しばらく不思議な気持ちで眺めていたのだった。






 運命のツインレイシリーズPart5『アイドルの裏の顔編』終







 あとがき


 偽物とは、本物に形を似せて作ってはいるが、どこかいびつで、本物を知ってる人が見るとあちこちが欠けているものです。


 本質をよく知りさえすれば、すぐに違いが分かるのに、本質を知らぬ人は、いびつな形の、欠けた部分を妄想で勝手に補って、本物かのように思い込んでしまう。


 しかし、一番悪質なのは、その思い込みと偏見を持った人たちの声を、偽物と分かっていながら利用する人達の方に思えます。


 ですから、ゴシップ誌などにありがちな、いわゆる推しの熱愛記事に、ファンたちは敏感に反応してしまう。その多くは売上のためのガセであると、以前フリー記者たちの本音が書かれているものを読んだことがありました。


 よく見れば、嘘だとわかるのに、衝撃的な記事に負けて目を逸らしてしまうのだろう。


 実は、本物かどうか見抜くための手段が一つだけあります。それは本物の本質をよく知ること。本物の外見や噂だけで勝手な思い込みをしないこと。


 つまり、自分の『信じた本物を信じる』ことです、ね?



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運命のツインレイシリーズPart5『美男《イケメン》アイドルの裏の顔編』 星の‪りの @lino-hoshi

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