ドキドキ☆ふるさとクッキング

戯男

第12889回 昔懐かしい肉ソーダ


「みなさんこんにちは。『ドキドキ☆ふるさとクッキング』のお時間です」

「『ふるさと』に『ドキドキ』ってかなり違和感ある組み合わせですね」

「郷土料理研究家の岩谷です」

「アナウンサーのキャベツ川です」

「今日は夏の風物詩、肉ソーダを作りたいと思います」

「いかにも保存が難しそうですけど、夏のものなんですね」

「箱根より西にお住まいの方はあまりご存じないかもしれませんが、関東では広く親しまれている飲み物なんですよ」

「そうなんですね。僕は生まれも育ちも関東ですけど聞いたことありませんが」

「東京都民の方にはおなじみですよね」

「それはもう日本のスタンダードでは?」

「その発言はやや傲慢なのではないのですか」

「失礼しました。訂正してお詫びします」

「では材料です。挽き肉三〇〇グラム。炭酸水七五〇CC。そして枝豆が十キロ」

「この割合でどうして肉ソーダって名前になったんでしょう」

「それから三号のナイロンテグスと台所用漂白剤があると作業が楽です」

「楽に越したことはありませんからね」

「まずフライパンでモヤシを軽く炒めます」

「早くも予定にない具材が登場しました」

「塩こしょうで軽く味付けをして、水が出る前にお皿に上げておきます。炒めすぎると歯ごたえが悪くなりますからね」

「いい感じのモヤシ炒めができましたが、ここからどうソーダになっていくんでしょう。目が離せません」

「枝豆はあらかじめ湯がいたものを豚に食わせておきます」

「これはさっきの挽き肉とは別の生きた豚ですか」

「一週間ほど前から餌を抜いておくと豚のがっつきが違います」

「あらかじめ畜舎を用意しておく必要がありますね」

「嫌がって食べようとしない場合は、鞭を使うなどして無理にでも食べさせます」

「豚は雑食らしいですからまあ大丈夫でしょう」

「そしたら銃田さんがやってくるので豚を引き渡しましょう」

「誰なんでしょうか」

「銃田さんは枝豆を十キロ以上食った豚をとにかく集めているおじさんです」

「なるほど。ピンポイントにマニアックな変態ってことですね」

「銃田さんは豚について色々質問してきますが、すべてに『ええ、まあ、はい』と曖昧に答えるようにしましょう。もし少しでも断定的なことを言うと、左右の耳を入れ替えられてしまいます」

「怖い都市伝説みたいですね」

「耳が逆だと前からの音がよく聞こえなくなりますからね。アッハッハ」

「何がおかしいんですか?」

「銃田さんは豚を連れて行ってしまいますが、かわりに綺麗な石ころをくれます」

「今回はADのバニラ塚くんがあらかじめ石を用意しておいてくれました」

「ではこの賢者の石を擂り鉢で粉末にしていきます」

「今賢者の石って言いました?」

「粉末にしたものを料理酒で練ると、独特の苦味が抜けて食べやすくなるんですよ。不老不死にはなれなくなりますが」

「そうなんですね。僕だったら苦いのぐらい我慢しますけど」

「ではこのペースト状になった石の粉末を、合い挽き肉と混ぜ合わせてよく捏ねます。お好みで塩こしょうも加えて下さい」

「ねえ。今気付いたんですけど、バニラ塚くんの耳、左右逆じゃないですか?」

「ではこのように濾したものを瓶などのガラス容器に移し替えて冷蔵庫で冷やしましょう」

「目を離した一瞬で挽肉が液体になってしまいました」

「一時間も冷やせば充分でしょうか。それまでちょっと休憩ですね。ふう」

「あ、炭酸水はここで飲むんですね」

「よかったらモヤシ炒めもつまんで下さい」

「予想はしてました」

「ねえ、前から思ってたんですけど、ここの受付の女の子、すごい可愛くないですか」

「本当に休憩するんですか。てかそん雑談は楽屋でして下さい」

「はいはい。ではあらかじめ冷やしておいたものがこちらです」

「なるほど。よく冷えてますね。……てか見た感じ明らかにスイカなんですけど」

「ちょっ冷やしすぎたみたいです。まあでも問題ないでしょう」

「最近の冷蔵庫はすごいですね」

「ではこのスイカを八等分に切り分けます」

「スイカって言いましたよね?」

「スイカと言えば私の実家ではカイレによく使うんですけど、最近はナケムジが多いせいであまりゴジョできてないらしいんですよね。全員殺したくなってきたなあ」

「よくわかんないし怖いので無視しますね」

「では炭酸が抜けないようグラスに注いでいきましょう」

「またしても一瞬でスイカが透明な液体に変わりました」

「あなたが目を背けている間にも世界は刻一刻と変化しているのです」

「それはそうかもしれません。すみません」

「はい。ではこれで完成です。下町名物東京サイダー」

「最初と話が違いませんか?肉ソーダはどうしたんです?」

「肉ソーダ……?何を言ってるんですか……?」

「……いや、もういいです」

「暑い夏にはやっぱりこれですね。砂糖不使用なのでお子様にも安心」

「他の不安が山ほどありますけどね」

「ちなみに漂白剤と釣り糸はうるさい局アナを死なすのに使います」

「ははは。そう言うと思ってすでに処分しておきました」

「ほう。なかなかやりますね。今日のところは勘弁してあげましょう」

「さて、では今回もそろそろお別れのお時間です。お相手はレタス川と」

「無政府主義者の岩谷でした」

「来週は埼玉の郷土料理『左手のスタミナ竜田揚げ』をお送りします。ごきげんよう」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ドキドキ☆ふるさとクッキング 戯男 @tawareo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る