ぼくのかぞく

海月舎

【ぼくのおじいちゃん】

ぼくのおじいちゃんは明治うまれだ。


ぼくがあさおきて、1かいにおりてくると、もうけむりのおびがユラユラしてた。

おじいちゃんのたばこのけむりだ。おじいちゃんは、いつもたばこをすいながらテレビをみてる。


ふだんは正座ですわってテレビのチャンバラを一日中見ているだけで、ほとんどなにもしゃべらないのだけど、ゆうがたになって、だれもみてないとこっそりと食器だなからコップをもってきて、台所でお酒をコップいっぱいについでゴクッて全部のむんだ。

ぼくはおじいちゃんがのむところを一日のうちに何回もみた。だから、ゆうご飯をたべるころにはすこしフラフラしてる。


ねえ、どうしてはたらいてないの?

どうしてずっと正座であしがいたくならないの?

なんで、お酒のみながら一日中チャンバラだけみていておもしろいの?


小がくせいのぼくが、むくちでしゃべらないおじいちゃんにこんなことを聞いても、どうせこたえてくれない。


はたらいてなくて、たばこすって、お酒のんで、いちにちおわり。

なにもしゃべらないから、何をかんがえてるかわからない...。

だから、なんとなくぼくはおじいちゃんがきらいだった。

「こんな人にはなりたくない」って思ったんだ。


あれから50ねんいじょうたった。おじいちゃんは30ねん前くらいにてんごくにいった。

がんだったらしい。いたかったのにすこしもいたがらず、いたみをがまんしてなくなったらしい。

おじいちゃんが死んでから、ぼくにも、いろいろあった。

けっこんもして、こどももうまれて、はたらいて、そしてお酒もたくさんのんだ。


そう、お酒もたくさん...のんだんだ。

はなしたこと事をおぼえてないくらい。でんしゃでねてしまって、えきを乗り越すくらい。

だから、くやんでももどらないむだなじかんはいっぱいある。


そんなあるとき、ぼくのこころの声が、ぼくにいったんだ。

「おまえのほうが、おじいちゃんよりひどいんじゃないか?」と。

「そうだ、ぼくのきらいだったおじいちゃんよりぼくの方がひどい...」と、ぼくは思った。


その時から、ぼくはじぶんがきらいになった。じぶんがわからなくなった。

きらいだったおじいちゃんよりも、もっときらいなじぶん...。


おじいちゃん、ごめんなさい。ぼくはわかってなかった。まちがいだった。

おとなになって、いろんなことがあって、やっとわかった。

なにもしゃべらないりゆうもわかった。しゃべらないんじゃなくて、しゃべりたくないんだよね。


でも今ごろわかったって、もうおじいちゃんはとっくにいない。

とっくにいないんだ。もうおじいちゃんになにもしてあげられない。


だから、ぼくはかってにおもうしかないんだ。

「おじいちゃん、ぼくはただ生きることしかできない。でもおじいちゃんのことはわすれない。」って。


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