第2話 やっぱり無理
「ご飯できたよ。たいしたものじゃないけど。」
「うわぁ、おいしそう。
悠里って料理できたんだね~。」
「失礼だな。両親が忙しくて一人っ子だったし、
意外と何でもできるんだよ?」
「うん、わかるんだけど、イメージ?」
「あぁ、そう思われていても仕方ないかも。
さ、温かいうちに食べて?」
美里のリクエストがパスタだったから、トマトと細切りにした豚肉のパスタに、
コンソメスープに蒸し鶏とキュウリのサラダをつけている。
たいしたものではないけれど、泊めてもらうお礼として料理は私が作ることにした。
食べ終わるとお腹がいっぱいと美里は満足そうにソファに転がった。
高校時代にはきっちり結んでいたストレートの髪は、
卒業してからショートカットにしたらしい。
さらさらと耳にかかるくらいの茶髪が、小顔な美里に良く似合っている。
「あぁ~美味しかった!!ぜひ、嫁に来てほしい!」
「大げさだなぁ。一人暮らしなんだから美里だって料理はするでしょう?」
「いや、そうなんだけど~作ってもらったご飯って本当にいいよね。
半年も一人暮らしだとやっぱりさみしくなるんだよ。」
「そっか。」
片付けた後、食後のお茶を淹れて飲むとようやく落ち着いた気がした。
ここに着いた時は冷静だと思ったけれど、美里には落ち着けと言われていた。
今考えれば、冷静に焦っていたのだと思う。
取り乱したりはしなかったが、あきらかにおかしな行動をしていた。
「とりあえず今日と明日は泊っていきなよ。服も貸すし。」
「ありがとう。今日が金曜日だったことがせめてもの救いだよ。
二日間は帰らなくて済むから。」
あの後、家に帰る気にはならず、思い切って美里に連絡してみた。
高校の図書委員で一緒だった美里だが、それほど一緒にいたわけではない。
私の隣には必ず律と一花がいた。
他に友人と呼べるような人がいなかった私には、
図書委員で一緒だっただけの美里が、律と一花以外では一番仲が良かった。
友人というよりも知り合いと言っていいほど、一緒に居た時間は短い。
図書室以外で会ったことも無ければ、連絡をこまめに取り合っていたわけでもない。
それでも美里に連絡したのは、私が唯一相談したことのある相手だったから。
私に友人が少ないのは、知り合ったとしてもすぐに律と一花に邪魔をされるからだ。
自分たち以外の友人はいらないだろうと律に圧をかけられ、向こうには一花が何か言っていた。
それに気が付くまでは私は人に嫌われるタイプなんだとばかり思っていた。
一花は長い黒髪と黒目がちな瞳で、その小柄な身体やたれ目なところも、
守ってあげたくなるタイプで男子からとても人気が高かった。
律のほうも長身で運動神経も良く、少し茶色い地毛と薄茶色の目がハーフっぽく、
まるでモデルみたいだってファンになる子たちがいたくらいだった。
一方の私は髪や肌の色素は薄いけど、身長も顔も成績も普通で。
どうして私のような何の取り柄もない地味な子と、
人気がある二人が一緒にいるのかとよく言われていた。
美里と知り合ったのは図書委員の仕事がきっかけだ。
週に一度の当番がある図書委員は人気があまりなかった。
クラスに一人だけということもあり、同じクラスの律と一花とは一緒にならない。
週に一度、放課後に貸し出しの当番をするのは、本好きの私には楽しかった。
さぼる人も多い中、美里は休むことも遅れることもなく図書室に来ていた。
本好きという共通の話題もあったことで、美里と仲良くなるのは早かった。
…美里だけは邪魔されたくない。
そう思って、律と一花に仲良くなった人はいるかと聞かれても、
図書室では私語は禁止だから誰とも話していないと嘘をついていた。
本当は図書室の奥に小さな休憩室があって、美里とはよく話していた。
携帯番号も登録したら律に削除されてしまうからと、美里の番号は暗記していた。
もし何かあったらいつでも連絡して、そう言われていた。
あの頃も美里は真剣に話を聞いて心配してくれていた。
そんな関係はおかしい、律と一花からは離れたほうがいいと思うよと。
今日も連絡した時に簡単に事情を説明したら、すぐに泊まりにおいでと言ってくれた。
その言葉に素直に甘えさせてもらって、
一時間ほど電車に乗って隣の県に住む美里の家まで来ていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。