3

 雲行きが怪しくなってきたと思っていたが、あんなに突然、雨が降り出すなんて……。

 日下 愛稀はひとまず身にまとった水浸しの衣服を脱いだ。重みを帯びたそれらが、床にぐしゃりと落ちる。先ほど男性からもらったバスタオルとタオルで再び身体を丁寧に拭いていった。

 ふいに、自身の髪の毛が気になった。部屋の壁に備え付けられている鏡を見ると、やはりまた少し、毛が逆立っている。

「うう……」

 と情けなさそうに唸り声をあげる。逆立った毛を寝かすべく、手を櫛のように動かした。元来癖っ毛気味な愛稀だったが、とりわけ頭頂部の毛が逆立ちやすいのは、昔からのコンプレックスだった。この2本のアホ毛は、多感な少女期の彼女を本当に悩ませてきたのである。最近になってようやく直すことに成功したが、こうやって大変な目に遭ったり、気持ちが焦ったりした時など、未だにぴょっこりと立つことがある。一生つきまとう悩みかもしれないと思うと、彼女の胸中には人生の半分をすでに悟ってしまったような、諦めに近い感情が渦巻くのだった。

 こんなこと思ってちゃダメだ、とパンパンと両頬を叩いて気を取り直す。それにしても助かった。急に雨が降り出して、どうしようかと思っていた時、運よく声をかけてもらえ、雨宿りをさせてもらうことができた。先ほどまで必死で意識が及ばなかったが、改めて先ほど通ってきた室内の様子を思い返してみると、ここは何かのお店のようだった。壁際にカップボードが置かれていたり、テーブルがあちこちに設置されていたりしたので、どうやら喫茶店のようである。

 それに……と、改めて目の前の衣類に目を落とした。こんな服まで貸してもらえるなんて、なんだか申し訳ない。折りたたまれた純白のそれを手に取って広げてみると、ワンピースだった。無地でシンプルながら、どこかエスニックさも感じるデザインだ。

 裾の方から頭を入れ、袖を通す。おあつらえ向きにぴったりだった。鏡は小さくて、見ても胸の上あたりまでしか映っていないが、きっとぴったり似合っていることだろう。彼女の身長は、平均的かそれよりちょっと小さめぐらいだが、それでもここまでちょうどフィットする服に巡り合えるとは、何という偶然だろうか。

 着替えもできたし、髪の跳ねもある程度落ち着いてきた。扉を開けて、外に出る。目の前に石庭が広がっていた。この木造の建物も、古風ながら日本らしい風情がある。愛稀は趣のある日本家屋の風景を見ながら、先ほどの部屋へと戻った。

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