移動式調査拠点
「今のところエネルギーが足りているのは分かったし、いずれエネルギーが不足する可能性がある事も分かった」
ある程度落ち着いたので、姉上が紅茶を一口飲んだ後に口を開く。
「今までは日の明るいうちに帰って来れる範囲を動き回っていたが、少し遠出をする必要があるな」
「遠出ですか」
「いけませんっ! セリアーネ様!」
これは従者であるイミュリアからストップがかかってしまう。
「それは外泊をされる可能性も含めてのお言葉でしょう? ありえません」
「いや、今も外泊みたいなもんだろう?」
「ここは設備が整っているからいいのです。ですがこのような地ではセリアーネ様が滞在されるにふさわしい宿や屋敷などがないではないですか!」
確かにそうだ。姫君である姉上が外泊、しかも野宿などあってはならない。
「イミュリアの言う通りです。姉上が外でお休みになられるなんて」
「だがお前達だってやっただろ? サバイバル訓練。あたしも昔やったんだぞ?」
「何やってるんですか……」
思わず頭を抱えてしまう。
「だが実際問題、いつまでもこのままではいられないぞ? 今は山脈内の近くの山、飛んで帰ってこれる範囲を行ったり来たりしているが、いずれは弱く小さい魔物しかいなくなるかもしれん」
「中にはここが安全だと思い集まる魔物がでるかもしれませんわ。そういうのを狩れば良いではありませんか」
「そういう魔物は温厚で闘争心が低い。そんなものを殺す気になんぞならないぞ」
「まあ、それは確かに。ただの虐殺になってしまうか」
こちらに害を為す魔物であれば、殺す事に異論はないが。
「実際に逃げ出す魔物を追いかけたりしてないからな。そういう連中が外で言いふらしてるのかもしれん」
「あー、同種や近種だと意思の疎通もできるからなぁ」
姉上は戦闘こそ好きだが、殺しを楽しむタイプの人ではない。背を向けて逃げ出した魔物まで追いかけるようなことは基本的にしないだろう。
「だから遠出の必要があるだろう? イミュリア、お前の好きなちょこれーとやぽてがなくなるよりは……」
「それくらい我慢します! 外泊が必要であれば、相応の宿や館が必須です! これは譲れません!」
どうやらイミュリアは退かないつもりのようだ。
「ニャ、提案があります、ニャ」
「提案?」
「そうです、ニャ。ヘンリエッタ、あれをモニターに出す、ニャ」
『かしこまりました。ですが、あちらの免許をお持ちの方はいらっしゃらないので』
「運ぶのは恐縮ですが、艦長に任せる、ニャ。どちらにせよ今のままではいけません、ニャ」
ブランフィオの言葉にヘンリエッタが壁一面のモニターに何かを映し出した。
「ブランフィオ、これは?」
「ご説明します、ニャ」
ブランフィオはてくてくとモニターの前に立ち、こほんと咳払い。
「ヘンリエッタ、説明を」
『はい副官。こちらはスバトヨッタ製の移動型調査拠点、EFR=3351、同じくEFR=3352、EFR=3353。移動基地にございます』
なんというか、大きな画面に巨大な馬車というべきか、そのような物が映し出されている。
『三台連結で稼働が可能で、一台は調査用情報収集基地、一台は資源物資収集分析基地、そして一台は調査員住居基地となっております。当艦の本来の役割であります、移民先の情報収集を行う際に、調査艦では到達不可能な地域などの調査を行うべく搭載されている基本装備の一つとなっております。調査員達が搭乗し、情報収集などを行う為に時には調査基地に、時には移動車両に、そして時には砦となり、調査員のサポートを行います』
「……こんなものが、ここにはあるのか?」
『はい艦長、他にも航空機や潜水艇、小型宇宙船、小型水陸両用艇などが各部署に搭載されております』
「残念ですが、どれも免許は必要です、ニャ。ですがシミュレーター訓練などを行えば、調査員達も操作可能になります、ニャ」
次々と表示される、金属製にみえる良く分からない建物、構造物に首を傾げるオレと姉上とイミュリア。ただ自信満々な表情のブランフィオを見ると、これらが有用なものだというのは十分に伝わってくる。
『副長が長期的にこちらの艦を離れられるのを危惧されているのであれば、こうした移動基地を使用すればよろしいのではないでしょうか?』
「うん、とりあえず、現物を見たいか、な?」
「で、ですわね。セレナーデ様がお過ごしになられるのに相応しいものかどうか、判断しなければなりません」
「おお、これ飛ぶのか! 飛んでるな! すっごいなぁ!」
実際にそれらが動く映像を見てはしゃいでいる姉上を見て、少しだけほっこりした。
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