どう思う?
「遅いわ」
「ええ、遅いわ」
『時間を決めてなかったではないか。責めるものではないだろう』
門柱をくぐり玄関に入ると、そこには仁王立ちで我々を待ち構えた三人。
「おはよう」
『ああ』
「遅い言うてんねん! 冒険者の朝は早いねん!」
「そうよ! おいしいクエストを人に取られちゃうわ!」
「う、あ、うむ」
「グレン様に何という言い草っ」
『ふむ、先ほどから気になっていたのだが、この娘は?』
「あ、ああ。紹介しよう、ブランフィオだ」
「獣人の子ね?」
「獣人の娘ねぇ、なんや親近感の沸く子やけど。なして連れてきてん?」
「ああ、うちのパーティには斥候役が必要だろう? スィーダもいないわけだし。ブランフィオはキャットタイプだから目も耳もいいし鼻も利く」
そう、オレ達のパーティには斥候役がいないのだ。元々スィーダはラファーガのパーティだしな。
「いや、確かに斥候役は必要やけど」
『能力面もだが、いくらなんでも幼すぎないか?』
「そうねぇ、この子くらいの冒険者がいないとは言わないけど」
「あ、足手まといにはなりませんっ、ニャ。グレン様のお役に立たないと、い、いけないの、ニャ!」
「「『 グレン様? 』」」
「……気にするな、そう呼ばれているだけだ」
本当は呼び捨てにさせたかったんだけど、ブランフィオが頑なに譲らなかったのだ。命令して言わせようとすると、涙を流し奥歯を噛みしめながらながら呼び捨てにし、最終的に表情が抜け落ちてしまうので様付けで落ち着いたのである。
「ちょお、相談ええか?」
「ああ、構わんぞ」
ガリオンがこちらに断りを入れて、二人を連れて少し離れていった。オレの時は簡単に仲間に入れてもらえたが、やはりブランフィルの見た目の問題だろう。
「どう思う?」
『あのような小さな子供を連れて冒険など』
「いや、待ちい。普通の子やないやもしれん」
「え?」
『どういうことだ?』
グレンっちゅう男は普通やない。辺境の山奥で育ったというが、そんなもんウチは信じとらん。
ラファーガはんもなんかしら知っとるかもしれんが、ウチはもうちょい踏み込んだところまで推測ができている。
「いやな。あの子、グレンの……護衛か監視やないかと思うとる」
「護衛か監視?」
『どういうことだ』
この二人は気づいてなかったか。まあジンに人間の機微を推測するっちゅうんは無理な話や、ローネはんはグレンとの接点が足りん。
「あいつはな、たぶんどっかのお偉いさんの嫡子やで」
「へ?」
『ほう、ガリオンと同じ貴族に連なるものか』
「ウチよかもっと上やろうな。ウチは男爵家やけど、普通の男爵家は多少裕福な商家にも劣るんや。あない育ちがよさそうな立ち振る舞いはせえへんで」
「育ちがいい、かしら? どこか憮然とした態度に見えるけど」
『だな。丁寧かと聞かれるとちょっと違う気がする』
分かっとらんな。
「そこがウチより上っちゅう根拠や。自分より格下の人間に囲まれて暮らしとった貴族の子はだいたいあんなもんやで」
「そうなのね」
『そうか、上のものが親しかいなければ』
「言葉遣い以外となると食事の時の食器の使い方や、文字の書き方があるな。ナイフやフォークの使い方、食事の順番なんかもや。それと普通羽ペンなんかうまく使えんのに、当たり前のようにそれを使ってサインもしとった。それなりに使い馴染んどらんと、線をとぎらせずに書くんはむずい。素材報酬の受け取りんときにウチもいたけど、さらさらときれいに書いとった」
貴族学校で最初に教わるのは羽ペンの使い方や。文字を美しく、それでいて素早く書くんにはそれなりの練習が必要なんや。
「それに、そんな育ちやったら空間魔法やらの知識を持っとらんのも頷けるで」
『おかしくないか? 貴族の子だったらそれなりの教育を受けているのではないか?』
「隠されて育てられてたらそんなもんやで。ただただ大事に、外界とは閉ざされたとこで育てられたんと違うかな」
「まあ」
『なるほど』
だんだん理解が深まってくれとるな。
「だと、なんで山奥から来ただなんて?」
『嘘をついていたのか?』
「そこはわからん、そもそも山奥にいたんは嘘と違うかもしれん」
「え?」
『嘘ではない、と?』
「せや、実際にどっか山奥で匿われてたんかもしれん。そんで何かしら事情があって山を下りざるを得なかったんかもわからん」
「どんな事情かしら……」
「わからん。けど普通の理由やないと……思うで。ま、権力争い関係の話やろな。待ちい、そうなるとラファーガはんもなんか知っとる可能性あるな」
「ええ?」
『我々に秘密裏にか?』
「せやで、この街で信頼できる冒険者いうたらラファーガの名前が最初に上がるんは間違いないやろ。領主やらその近辺の大貴族に秘密裏に依頼されてウチらにも言えん状況にあるかもしれん」
『ラファーガ殿にそのような大それた依頼を? 確かに信頼はできる御仁だが、そこまでの依頼を?』
「ラファーガは隻腕の剣聖様ともつながりがあるわ。剣聖としての活動はもうされていらっしゃらない方だけど、もしあの方を通しての紹介だとしたら……」
「せや、のっぴきならない状況に巻き込まれとる可能性もある」
「そんなっ」
『むう』
驚きの表情のローネさんと、悩まし気な声を出すジン。せやで、わかったか?
「じゃあ、あの子を拒否するのは」
「得策じゃない、としか言いようがあらへん。よそから来たんならまだしも、グレン本人からの紹介やからな」
『むう』
ウチとチームになるっちゅう時も若干難色を示したジンや、面白くはないやろうな。
「少なくともいきなり拒絶はしたらあかん。一度受け入れ、実力不足で追い出すんならまだしも、受け入れんっちゅう話になるとどこかしらで不評を買いかねん。次はどんな人間が送り込まれるかわからんわ」
「そ、それも困るわねぇ」
『そうなると、彼女は……』
「見た目通りの少女じゃないわな。それなり以上の能力を持っとるからグレンの側付きとして選ばれたんやろ」
グレン自身が彼女の能力をどれだけ知ってるかはわからんが、彼女をウチらとの冒険に参加させても問題ないレベルの人物であるとは評価しているはずや。
「つまり」
「そや」
『結論が出たな』
玄関の近くのソファに座るグレンと、その横にきれいな姿勢で立つ猫の獣人に視線を向ける。
うん、服装こそあれやけど、どうみても主従関係や。ウチの憶測に間違いはなさそうやな。
ほんと、なにもんなんや? あいつ。
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