53.第一部:エピローグ:ライカの胸の内とパーティの旅立ち

◇ ライカの胸の内


「いやぁ、ダンジョンで変質者に出くわすなんてさんざんだったね」


 冒険者ギルドでの聞き取りが終わり、お師匠様はふぅと息をはく。

 とはいっても、本当のことを話したわけじゃない。


 お師匠様は変質者を捕縛した手柄を、あの冒険者のお姉さんたちに譲ってしまったからだ。

 目立ちたくないからと、むしろ、なすりつけた感じだけど。


 お師匠様は本当に不思議な人だと思う。

 褒められたいとか、称えられたいとかそういうのに全然関心がないようだ。

 せっかく大きなモンスターを倒したのだし、私だったら、もっと褒めてもらいたいけどなぁ。

 

「ライカ、今回は本当にすごかったよ! 魔法使いとして、貴重な経験になったね! 犬魔法の完成にも一歩近づいたよ!」 

 

 そんなことを思っていたら、お師匠様は不意打ち気味に私を褒めてくれる。

 相変わらずの笑顔で、大きな瞳がまぶしい。


「ありがとうございますっ。お役に立ててうれしいです! これからも頑張ります!」


 お師匠様のいいところは、こういう何気ないところなんだなぁって思う。

 一緒にいて安心できて、そして、私を導いてくれる。


 魔法学校の最底辺にいて、毎日、泣いていたあの頃の私はもういない。

 私はお師匠様のもとで切磋琢磨しようと志を新たにするのだった。


 お師匠様、大好きです!




◇ エピローグ



「それじゃ、アロエ様、ライカ様、お世話になりましたぁああ!」


 数日後、ソロは隣国の街に移っていった。

 彼女は一族の宝物を探す旅を一人でしているらしい。

 若いのに、あっぱれな女の子である。


 ふぅむ、旅か。


 旅っていいよねぇ。

 ワイへ王国での駆け出し冒険者生活も楽しかったけど、色んな街をめぐってみるのもいいかもしれない。

 

 そう、私たちは好きな街に行って、好きなことができるのだ。

 なんせ、Fランク冒険者なのだから!


「お師匠様、大賛成です! わたし、海の幸でも山の幸でも大好きですよ! お刺身食べたいです!」


 ライカは尻尾をぱたぱたさせながらとても嬉しそうだ。

 セリフの後半に本音がダダ漏れしてるけど、美味しいものを探す旅も悪くない。

 駆け足の冒険だった勇者パーティ時代には食べられなかったものも多かったし。


 そして、旅で出会った獣人たちに魔法を教えていくなんてのもありかも。

 まぁ、あくまでも秘密厳守だけどね。


「素晴らしいですね! まるで七聖獣人のお話みたいです!」


 ライカは獣人のおとぎ話の話をだして、すごいすごいという。


 かつて七人の獣人とそれを率いるリーダーが巨大な悪を倒したとかいう、そういう話。

 私は別に悪を倒すなんて大それたことは考えちゃいないけど。


 とはいえ、旅をしながら弟子を指導するっていうのは面白いかも。


 大陸のいろんな場所で広げていけば「獣人は魔法が使えるんだ」って分かってもらえるし。

 そして、そんな人材がそろえば魔法学校への道筋もたつかもしれないし。


「私、お師匠様に弟子入りできて本当に良かったです! 魔法って本当に面白いですね!」


 ライカは道中、屈託のない笑顔でそんなことを言う。

 確かに彼女は魔法が使えるようになった。

 弟子入りしてよかったっていうのは本心だと思う。

  

 だけど、私は思うのだ。


 彼女によって、私も救われているし、心底楽しいっていうことを。

 宮廷魔術師を解雇されて、やさぐれていた私の心を癒してくれたのは彼女の無垢な心だった。


 それに彼女の言う通りなのだ。


 魔法ってやっぱり面白い!

 

 世界で一番面白い!

 

 当たり前だけど、大切なことをライカは私に気づかせてくれた。


 だから私は言うのだ。


「ライカ、ありがとう! これからも頑張ろうね! 一流の魔法使いになるよっ!」

 

 照れくさいから抱き着いたりとか、そんなことはしない。 だけど、心からの感謝を込めて手を握る。


「はいっ! 一生、ついてきます!」


 ライカは笑顔でそういうのだった。

 一生かぁ、一生ついてこられるのは大変そうだなぁ。うん。



「じゃあ、次は海の街だよっ!」


「はいっ、シーフードですねっ!」


 私たちは意気揚々と新天地へと向かうのだった。

 気心のしれた弟子と気楽な珍道中も悪くないよね。

 せっかくの人生なんだ、楽しまなきゃ!





「青いですねぇええ! うぅん、シーフードのいい匂い!」

 

 到着したのはランナー王国との国境の町、ルルロロ。

 港町で美味しい海産物で有名な港湾都市である。


 潮の香りが鼻腔をくすぐる。

 街にも活気があるし、いい雰囲気。

 人も大らかで、空気もおいしい。


 これこそが私の望んだものだよ。 

 しばらくのんびりしようじゃないか。


 しかし、その街の郊外で私たちはとある人物を偶然助けてしまう。

 

「……げぇっ、この人、クラリス様じゃん!?」


 それはランナー王国の第五王女、クラリス様だった。


 でぇえええええ、な、なんでこんなところに?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【WEB版】猫魔法が世界に革命を起こすそうですよ? ~劣等種なんて言われるのならケモノ魔法でリベンジします!~ 書籍化・コミカライズ 海野アロイ @psalm

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ