43.賢者様、禁断の依頼に手を出そうとしたら、まさかの奴らが混ぜてきたぜ

「ひへぇえええ!? ダンジョンの奥で置いてけぼり!? な、なんでですかぁっ!? どうして、そんなことをされたがるんですかっ!?」


 掲示板の前でライカの絶叫がこだまする。

 ええい、ここで叫ばれるとバレちゃうでしょうが。


 とはいえ、びっくりしてしまうのも確かだよね。

 ライカは冒険初心者なのだ、分かりやすく教えてあげないと。


「いいかい、ライカ。冒険者たちがダンジョンに潜るだろう? そして、とんでもなく強い敵と遭遇したとする」


「はい」


「このままじゃ勝てない。全員が死ぬ。こんな時に、偶然、役立たずのただ飯ぐらいの荷物持ちのFランク冒険者がいたとする。……その結果はわかるよね?」


「あのぉ、役立たずって言っておきながら、荷物持ちって役に立っている気がするんですけど……。荷物って大事なものですよね?」


「ぐぅむ……、じゃあ、荷物持ちじゃなくて、ただのFランク」


「でもでも、それだったらダンジョンに連れてくる必要ないんじゃないですか?」


「ぐぅむうううう……」


 ライカらしからぬ、鋭い指摘に思わず唸り声をあげる私。

 ええい、細かい所はいいのだ、それは枝葉末節ってやつだ。

 重箱の隅をつつくようなものなのだ、重箱って何だか知らんけど。


「ええい、そういう時はクソザコFランク野郎を囮に使って逃げ出すのさっ! それがCランクとか、Dランクぐらいの、ちょい強冒険者の習性なんだよ!」


 指をびしぃっと突き出し圧倒的説得力を醸し出す私。

 一瞬、ライカに論破されそうになったけど、なんとか持ちこたえたのだ。

 偉いぞ、私。


「お師匠先輩、そんなことはないと思いますよっ? 冒険者の皆さんはいい人が多いですし、だいぶ、先入観が盛られているというか、それって噂話とか都市伝説じゃないですか?」


 しかし、ライカは目をジト目にして微妙なことを言い出す始末。

 やれ都市伝説だ、やれ噂話とか、ひどい言われようだ。


「言っとくけど、こういうのこの界隈では有名だからねっ! 一日に何人の新米が置き去りにされていると思ってるんだね!?」


「ひぃいい、それ、どこの界隈なんですかぁ!? そもそも、なんでお師匠様はそれを求めてるんですかぁ!?」


 ダンジョンを甘く見るんじゃないよ、食うか食われるかなんだよ、と愛のお説教を食らわす私である。

 しかし、なんで置き去りにされてみたいのかって言われてもなぁ。


「……そこにダンジョンがあるから?」


 といった、ごく一般的な答えしか生まれてこない。

 他に答えがあるなら教えて欲しいぐらいだ。

 もしも、ダンジョンがないのなら置き去りは起きないと思うし。


「山みたいに言わないでくださいよぉおっ!」


 ライカは涙目になっているが、これは決定事項なのである。

 なんせ私がSランク時代に作った、『Fランク冒険者になったらやってみたい百のこと』にも書かれているのだから。


「それに、安心してもいいよ。別に囮になって危険な目に遭いたいわけじゃないからね。ただちょっとだけ、人間の底すらない悪意(進化)を感じてみたいんだ」


「お師匠先輩、いちいち表現がえぐいですよぉおお」

 

 私がふんすと鼻を鳴らすも、ライカはいまいちわかっていない様子。


 まぁ、私も勇者パーティ時代に囮になったことはないからわからないけどね。

 聖女を囮にしようと思ったことは何度もあったけど、ことごとく失敗したし。


「でもですよ、先輩。第一、私たちを置き去りにする冒険者パーティはいないんじゃありませんか? ほら、ワイへ王国の冒険者の皆さん、みんな、いい人なので」


 ライカはどうしても私の提案を阻止しようと、あの手この手で攻めてくる。

 ふふ、でも、大丈夫。


 ライカの美貌さえあれば、連れていきたいと思う不届きな野郎はたくさんいるでしょう。

 その中でも一番、人相の悪い奴らを選び出せばいいのだ。

 ふくく、我ながらすごい作戦。


「……お師匠先輩、今回だけですからねっ! あとでしっぽり三時間、魔法の練習しますからっ!」


 そんなわけで。

 ライカはしぶしぶ納得して、私と一緒に一芝居打ってくれることになった。



「あぁれぇえ、こんなところにダンジョン調査の補助って依頼があるぅ」


「本当だぁ。やってみたいですねぇええ!」


「でもでもぉ、CランクかDランクのパーティについていくことって書いてあるよぉ」


「本当ですねぇ。どなたか心優しいパーティはいませんですかねぇええ?」


 非常にわざとらしい白熱の演技である。

 見るからに初心者であり、囮にし甲斐のある奴らに見えるだろう。

 さぁ、悪辣な冒険者よ、やってくるがいい!

 私たちが最高の囮になってあげるよ!



「ふふ、お嬢ちゃんたち、ダンジョンに興味があるのかい?」


「それなら、俺たちもまぜてよ?」


「こらこら、自己紹介もせずに提案するなんてマナー違反ですよ」


 すると、すぐさま三人組に声をかけられる。

 見るからに爽やかなイケメンパーティである。

 しかし、その外見はブレザーみたいなの来てるし、いかにも学生さんといった風情である。

 一応、剣や魔法の杖を持っていることから、冒険者らしいことは分かるのだが。


「僕らはCランクパーティ、ワイへ美男子学園高等部の三人さ。この依頼を受けようと思っていたんだ、偶然」


「もしよければ、君たちは僕らの補助として参加してくれないか? かわいい、獣人のお嬢さんたち」


 そういうとニコッと笑うリーダー役の剣士の人と魔法使いの人。

 見るからにイケメンであり、爽やかであり、いい感じである。


「び、美男子学園高等部……」


「リアルでいたんですねぇ……」


 驚きのあまり顔を見合わせる私たち。

 この人たちがあのワイへ美男子学園だったとは。

 美男子って自分で言っちゃうところもすごいけど、確かに美男子ぞろいである。

 まつげ長い、はわわわ。


 それにしても「かわいい獣人のお嬢さん」なんていうのは迂闊だったわね。

 私は見抜いてしまったのである、こいつら悪(わる)だって。


 ものの本によれば人相が悪くない方が、逆に悪辣なことをするということもある。

 天は二物を与えずっていうし、私は人を見る目には自信があるし、このパーティに賭けてみることにした。


 ライカ、都市伝説じゃないってことを証明してあげるからね。


「よろしくお願いします!」


 そんなわけで、二つ返事で彼らの申し出を受けることにした私なのである。

 別にイケメンが好きとかそういうわけではない。

 イケメンほど自己保身に長けているものなのだ。

 

 ふふふ、イケメンだろうが、美少女だろうが、極限状態で皮一枚ひんむけば悪意がつまってるってなもんなのさ。


「ひぃええ、決断が早すぎますよぉお!? 大丈夫なんですかぁ!?」


 ライカは不安そうな顔をして私の袖をひっぱる。

 そりゃそうだよね、さっきまでの話を聞いてたらびっくりしちゃうよね。


 だけど、大丈夫。

 私が安心安全快適なダンジョン囮体験をプロデュースしてあげるから。

 全ては上手くいく、とウインクする私なのだった。


「ライカ、とりあえず、これを渡しておくね」


 ダンジョンに潜るに当たって私はあるものを渡しておく。

 それは【つがいの鈴】という魔道具で、ダンジョン内で遭難しても相手の居場所がだいたい分かるという優れものなのである。

 まぁ、ライカとはずっと一緒にいると思うけど。

 

 さぁっ、楽しい楽しいダンジョン探索が始まるよっ!

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