26.賢者様、ついに薬草採取というザコ依頼を前に大はしゃぎ! もちろん依頼を受けるよ!

「せんぱーい、やくそうって何ですか?」


「薬草? 薬草って傷を治したりする植物でしょ。……あぁ、この依頼ね」

 

 冒険者ギルドの依頼の張られた掲示板の前で、ライカが不思議そうな顔をしていたのには理由があった。


 彼女の視線の先には『近隣の森での初級薬草の採取 報酬:4500ゼニー』の文字があったのだ。


 なるほど、薬草採取かぁ、しかも初級薬草だなんて!

 まさにFランクにふさわしいクエストだよ。


 正直言って、私は薬草の採取をしたことがない。

 パーティで活動していた時は高級な回復薬が使い放題だったし、そもそも回復魔法も使えるからだ。


 しかし、思い返してみれば、薬草採取は大事な仕事だよね。 

 初級冒険者は薬草を原料にしたポーションを欠かさず持っているらしいし。


 Fランクらしいザコい仕事ながら、人様の役に立てるなんて素晴らしいじゃないか!


「よぉし、今日はこの魔法にしてみようか!」


「薬草採取ですね! うふふ、アロエ魔法学院の初クエストです!」


 私が依頼を選ぶと、楽しそうにはしゃぐライカ。

 まぁ、クエストなんて大仰なものではないと思うけどね。

 要は草を引っこ抜けばいい簡単なお仕事なんだし。


 とはいえ、身分偽装して以来の初依頼なのだ。


 私は内心ウキウキしながら、近隣の森へと向かうのだった。





「ひえぇええええ」


 森で私たちを待っていたのは、草、草、草の大繁殖だった。

 今は雨が多くて、気温の高い季節、草が繁殖するには最適な季節だ。


 やたらめったら茂ってくれて、どれを採集すればいいのかよくわからない。

  

「お師匠様、私、薬草なんて見たことないんですけどぉ」


 ライカは不安そうに声をあげる。

 確かにこの青々とした森で薬草だけを探すのは骨が折れそうだ。


「実をいうと私も……」


 しかも、悪いことには私も初級薬草なるものを見たことがないのだ。


 だってぇえ、所詮はFランク向けの簡単な依頼でしょ。

 すぐに分かると思ったんだもの。

 舐めてて申し訳ない。


 でも、大丈夫。

 私には魔法があるからね。


「真実の目、発動!」


 そんなわけで鑑定魔法を発動。

 私の視界にはどんどん植物についての情報が入ってくる。

 

 メリムの樹、ドドド草、しゃくら花、雑虫草、けもけもスイレン……etc

 あわわわ。

 ちょっと混乱するぐらいの大量の情報である。

 確かに森には色んな素材があるものだけど、私は別に名前を知りたいわけじゃない。

 

 しょうがないので、魔法の精度をちょっと落として、薬草か、そうじゃないかだけに焦点を絞る。

 何も目に入ったものすべてを鑑定する必要はないのだ。

 私たちが欲しいのは薬草なんだから。


「おぉっ、薬草発見!」


 そして、草むらの一角に『薬草』の文字を発見する。

 なんていうか、ツンツンしている緑の草である。

 ふぅむ、なるほど庶民の皆さんはこれを薬草にしているのか。勉強になったよ。



「ライカ、これが薬草みたいだよ。頑張って集めようじゃないか!」


「お師匠様、これ、なんだかいい匂いがします! ……食べちゃってもいいですか?」


「ダメだよ? お腹壊すかもしれないし」


 ライカがとんでもないことを言い出すので、とりあえず止める私。

 薬草の成分は毒として働くこともあるという。

 迂闊に食べたりしてはいけないはず。


「ぐむぅう、なんだか本能をそそられるような気がするんですよぉお」


「だーめ。……あ、でも、ちょっとわかるかも」


 私の制止に口をすぼめて悔しそうな顔をするライカ。

 午前中にことさら本能なんてことを教えたためか、彼女の中で何かが活性化しているんだろうか。


 まぁ、気持ちはわかるよ。

 この薬草、どことなく食べたくなる佇まいをしているのだ。


「帰ったら、おいしいサラダ食べればいいじゃん。今は頑張るよ!」


「はいっ! 私、サラダチキン大好きです! やりまぁす!」


 ライカは食べ物の話を持ち出すと、俄然やる気をだし始める。

 サラダチキンはサラダじゃないけど、もはや何も言うまい。

 

 そんなわけで私たちは手当たり次第に、ツンツンした植物を刈り取るのだった。


 どんどんどんどん膨らんでいく採集袋。

 うふふ、なんだか楽しい!



 しかし、私たちは知らなかった。


 自分たちが何を刈り取っていたのかを。


 この後、冒険者ギルドで受けた鑑定結果に私たちは驚愕することになる。

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