11.賢者様、得意の猫魔法で魔物の群れを一掃する! ついでにライカの問題点も把握するよ!

「うわぁ、すごいいるじゃん」


 悲鳴の場所に到着すると、びっくりである。


 そこにはキラーベアが群れをなしていた。

 やつらはガウガウ言いながら、女の子の登った木を取り囲んでいる。


「ひぃいいい!? た、助けてぇええ!」


 女の子は小柄で、服装からして冒険者っぽい雰囲気。

 森に野草採集に来ていたのだろうか。

 リス獣人らしく小さな耳と大きな尻尾がかわいらしい。


 キラーベアは食欲旺盛なモンスターであり、武装した人間だろうが躊躇せず襲ってくる。

 しかも、固い体毛に覆われている魔物で、初級冒険者では歯が立たないと来たもんだ。


 そもそも私の身長の二倍ぐらいある大きなクマなのである。

 普通なら怖いっていう感情以外、沸いてこないだろう。


「……クマって、群れるんですかね」


 ライカが指摘する通り、異様なのはその数だ。十匹以上はいる。

 キラーベアは基本的に一頭だけで行動する魔物なのに、群れるなんて珍しい。

 

 奴らの一匹は女の子を襲うべく、のそのそと木に登り始める。

 ふぅむ、弱い者いじめは好きじゃないね。


「あぎゃああ! あっちに行けえぇ! 私は小柄だし、可食部がすくないってばぁっ!?」


 女の子はというと、なかなかにえぐい悲鳴をあげる。

 可食部なんて自分で言ってどうするのさ。

 とはいえ、一刻も早く助けないと。



「ライカ、あの女の子を頼める?」


「のろまなクマ野郎の相手なんて、おやすい御用ですよ!」


 私が指示を出すと、ライカはだだっと駆けだしていく。

 さすがは剣聖の孫、ものすごい身のこなしだ。

 

「お先輩様! OKですっ!」


 彼女は目にもとまらぬスピードでジャンプ!

 熊の爪が届く前に女の子を確保し、こっち側に再び跳躍する。


 さっすがは剣聖の孫娘!


 だけど正直、君は物理的に攻撃したほうが活躍できると思うよ、うん。


「えらいよ、ライカ! それじゃ、あんたたちは消えちゃいなさいっ! 【超音速の右爪(ソニックブーム)】!」


 私は真空波を生み出す魔法を連続発動。

 次の瞬間にはざしゅんっ、ざしゅんっと透明な刃が空を切る!


 ぎげぇえええええ!?


 真空の刃が敵を襲い、ものの見事に両断してしまう。

 邪悪なキラーベアたちは肉塊へと変化してしまうのだった。

 ふぅむ、さすがは私の四十八の殺人魔法の一つ、殺傷力がハンパじゃない。 



 ぐがぉおおおおお!


 しかし、一匹だけ生き残っているやつがいる。

 ひときわ体が大きなクマ型魔物、レッドヘッドキラーベアだ。


 別名『アカカブト』と呼ばれ、遠い北の大地からやってきた突然変異モンスター。

 

 たまに現れると、「冒険者殺し」との異名を持つこともある強い化け物でもある。

 体に傷はついているけど、致命傷には至っていないらしい。


 へぇえ、私の魔法を喰らって生きてるって、相当、固いみたいだね、あいつ。



「よぉし、私の出番ですね! 炎の矢よ敵を燃やせ! ファイアアロー!」


 ライカは颯爽と魔物の前に歩み出て、渾身の魔法攻撃を繰り出そうとする。

 ファイアアロー、それは炎の矢を敵に飛ばすという初級の攻撃魔法。

 

 人間の魔法使いなら、魔法学院の一年生が習う魔法の一つだ。


「……あれ?」


 しかし、ライカの前に炎の矢は現れない。

 それどころか魔力を転換するための魔法陣さえ現れない。

 モンスターは不思議そうな顔をしてライカを見ている。


「こなくそぉ、出ろ! 出ろ! 出なさいっ!! 出て下さぁああい!!!」


 その後も何度かファイアアローと叫ぶライカ。

 懇願しようと泣き叫ぼうと、やっぱり発動しない。

 魔法は精神の集中が第一だし、焦れば焦るほど、ダメだってわかっているだろうに。

 

 私はライカの焦る様子を見ながら、彼女が魔法を使えない理由が少しずつ理解するのだった。


「なるほど……」


 私はライカの勘違いに気づいてしまった。

 それも彼女は魔法というものを根本から勘違いしているのだ。


 魔法というものは、ただの魔力の発露ではない。

 体の内側にある魔力と心の中のイメージの力が合わさって成り立っているのだ。


 つまり、術者が魔法を詳細にイメージできなければ、発動しないってことなのである。


 そして、私の研究が確かならば、そのイメージの仕方には普通人と獣人の間には大きな隔たりがあるのだ。

 簡単に言えば、私たち獣人が普通人の真似をしても、そのまま魔法が出現するってわけじゃないってこと。


 じゃあ、どうするかって?

 

 ふふふ、私のとっておきのレクチャーをやってあげようじゃないの!

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