【WEB版】猫魔法が世界に革命を起こすそうですよ? ~劣等種なんて言われるのならケモノ魔法でリベンジします!~ 書籍化・コミカライズ

海野アロイ@灼熱の魔女様・猫魔法 発売中

第1章 賢者様、まさかの解雇宣告を受けるも、妙な弟子が転がり込んできてわちゃわちゃになる

1.猫人賢者のアンジェリカ、ブラック職場から追放される。「こっちから願い下げだぁああ!」とキレそうになる

「アンジェリカさん、あなたはクビです。やはり劣等種の獣人を雇うなど、大きな間違いでしたね」


 私は猫人である。


 名前はアンジェリカという。

 とある国で宮廷魔術師をしている、十八歳の乙女である。


 ある日のことだ。


 大臣は私を呼び出すと、開口一番にそう言った。

 彼の口元にはいつものように意地の悪い笑みが浮かんでいた。


「わ、私は宮廷魔術師として頑張ってきました。仕事はしっかりこなしています! 解雇の理由は何でしょうか!?」


 突然の宣告である。

 私だって黙っちゃいない。


 先代の王様からスカウトされて以来、私は真面目に働いてきた。

 というか、雑用でもなんでもこなしてきた。


 これまでの頑張りを考えると、正直、あたしゃキレそうである。

 いくら何でも、急にクビはありえないでしょうが。


「はぁ? あなたはそんなこともわからないのですか?」


 大臣は私の言葉に溜息をもらす。

 そんなことを言われても、言いがかりにしか聞こえないっていうのに。


「理由はこれです」


 彼は私の前に、ずずいと紙を突き出してくる。

 それは確かに私の提出した報告書だった。


「あなたはまともに報告書も書けないのですか!? 私は常日頃から言ってるでしょう、書類は正確に書くようにと、せ、い、か、く、に!」


 森に棲み着いた魔物を私が討伐した経緯が報告されているはずなのだが、不正確極まりないと怒り始める。


 だが待ってほしい、私はしっかりと正確に記入したはずだ。

 責められる理由はないはず。


「ど、どこが間違っているのでしょうか?」


「どこがですって? これですよ、これ! この『猫魔法【超音速の右爪ソニックブーム】で討伐完了』というのは何ですか? こんな魔法聞いたことがありませんよ!」


 大臣が示したのは、私が報告書に書いた猫魔法の箇所についてだった。

 猫魔法というのは猫の生態とその観察から生まれた魔法のことである。


 この超音速の右爪ソニックブームという魔法は、実家の猫の右パンチが音速を超えたのをヒントにして開発された。

 簡単に言えば、真空刃を生み出す魔法であり、すぱっとモンスターを切り裂くのだ。


 かっこいいでしょ?


「いや、その、それは私のオリジナルの魔法でして……」


「オリジナルの魔法ですって? そんなものは邪法です! 栄えある宮廷魔術師の仕事には、そんなものは認められません! インチキにもほどがありますよ」


 弁明するものの、大臣は聞く耳を持たない。

 あからさまにため息を吐いて、私の話など聞く価値はないという素振りだ。


 私の猫魔法はインチキじゃないよ。

 猫魔法はちゃんとありまぁす!


「ふんっ、劣等種はこれだから困りますな」


「そうだ、そうだ。宮廷に潜り込んだ不届きものですよ、この女は!」


 大臣の後ろには取り巻きの連中が控えていた。


 一人は錬金術師のレイモンドという色黒の男。

 もう一人は魔獣使いのカヤックという大柄の男だ。

 彼らは大臣同様、性格の悪い顔をして口々に私をあざけってくる。


 はぁ?


 魔法が使えないですって?


 この場で超音速の右爪そいつをお見舞いしてやろうか? こんにゃろう。

 下品な言葉が喉まで上ってきたけど、ぐっとこらえる私。


 とはいえ。


 彼らが私をインチキ呼ばわりする理由はわかっている。


 この世界では、私たち獣人は魔法が使えないのが常識とされているからだ。

 そのため彼らのような普通人、あるいはエルフやドワーフといった種族からは『劣等種』と呼ばれることがあるのだ。


 あからさまな差別であり、そういう呼び名は大っ嫌いだよ。


 大体、私たちは獣人といえども耳や尻尾ぐらいにしか、その痕跡はないわけだし。


 それに、この常識は嘘なのだ。

 少なくとも、この私が魔法を使えるのだから。


 私はそんな現実を覆したいと、先代の王様の招聘に応じて宮廷魔術師として就職した。


 頑張っていれば、獣人でも魔法が使えるのだとわかってもらえるだろう。

 ゆくゆくは獣人のための魔法学院ができあがり、「教授先生!」だなんて呼ばれたりして……などとと期待に胸を膨らませていたのだった。

 

 しかし、起きたのは私の期待とは全く反対のことだった。


 宮廷魔術師たちは獣人である私を下に見て、雑用や面倒くさい仕事ばかりを押し付けてきた。

 就職してから一年、同僚の前で魔法を披露する機会は一度もなかった。

 

 そう、私は一人で黙々と仕事をこなしてきたのだ。


 先代の王様は着任早々に亡くなってしまうし、頼れる人はもはやいない。

 それでもいつか道は開けるはずと思っていたら、この仕打ち。


 全くもって、一年前の自分をぶん殴ってやりたいよ。

 こんな職場、選ぶんじゃなかったなぁ。



「劣等種のくせに口先だけで先王様に取り入った罪は大きいですよ」


「全くです、劣等種の分際で」


 私が後悔の念に駆られている間、大臣と取り巻き達の罵倒の言葉はさらに続く。

 頭ごなしに否定に拳が震えた。


 ……あんたら、私の禁忌猫魔法【シュレディンガーさんちの猫】でいっそのこと異空間に送ってやろうかぁああ?


 そんな言葉を、ぐっと堪える。

 これで二度目である。

 三度目はどうなるか分からないぞ、あんたら。



 私の魔法は派手なのが多くて、最低でも部屋を壊してしまう物が多い。

 プチファイアみたいなカワイイ魔法がができればよかったのに。


 それにだよ、彼らに魔法を見せつけたとしても信じるかは分からないんだよね。

 彼らは「獣人は魔法が使えない」という先入観で一杯なのだ。

 ちょっとやそっとの魔法では幻術や手品の類いと切り捨てられかねないのが実情だった。


 あーもうやだ。


 私は溜息を吐く。


 そして、「こっちから願い下げだよ、こんちくしょう」と啖呵を切ろうかとさえ考える。

 どうせ辞めるなら、かっこよく散るのもありだろう。

 

「大臣様、こちらが例の獣人の方ですかぁ」


 そんな時のことだ。


 大臣の後ろから女性の声がする。

 その声のトーンはやけにとげとげしく、高飛車な印象。

 嫌な予感が背中を通り抜けていく。


 まだ、他にもいるのぉ!?


 私は心の中で大きくため息をつくのだった。

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