セーブ

「ふぅ。新イベントは京極先輩だけかぁ〜あっけど西園寺会長が、プリント広げるのに手間取ってるシーンは新しかったかな?」


少女は画面から顔をあげると、両手を頭の上に上げて伸びをしながら呟いた。


「1周目以降、度々ほんのちょっとだけシナリオ変わるんだよね〜 ふぁーー

まだ、やってたいけど。ちょっと寝よう」


大きな欠伸をしながら、画面を操作してセーブを選択する。

ずらりと並んだセーブデータを、満足そうに眺めた少女は唯一何もセーブされていないスペースにカーソルを合わせる。


セーブする。


※※※※※※※※※※※※


どうやって新谷をまこうか頭を悩ませていると、突然。新谷が、周りが、時間が、世界が止まった。

“せーぶ”された様だ、当然私の体も固まる。


(って事は……彼が現れるはず)


私がゆっくり瞬きをすると、開いた視界に1人の男が映る。白銀の瞳に真っ白い髪、白衣の様なものに身を包んだ白の化身のような男。

彼は自分をプログラムだと言う。何度聴いても名前を教えてくれないので、私は勝手に“シロ”と呼んでいる。


「やぁ、今回も香織と呼べるようだね?」


シロはふわりと微笑むと、私に口付けをする。

触れ合うだけのとても軽いキス。


「毎度思うのだけれど、コレはすこし恥ずかし」


私は、唇に手を当てながら視線を横にそらす。

シロに触れられると私は動けるようになる。


「仕方がないことだよ、香織がシステムを乗り越えるためには」


私がこの世界がゲームだと知れたのはシロのおかげ。

彼が私に色々教えてくれたのだ。


「それよりも、“こうりゃくキャラ”は4人って言ってたわよね?」


「そうだね。攻略キャラは、京極真也・新谷薫・天田一星・西園寺眞の4人だよ」


ゆったりと口を開いたシロは、私の髪の毛を自分の指にくるくると巻き付け遊んでいる。

シロに触れられて口は動くようになったが、体は固まったままだ。私はされるがまま受け入れているしか出来ない。


「んじゃぁ。あいつは何でまた“最初から”を選んだんだ?」


私、1人の呟いた。シロは“世界”について教えてくれる。けれど、それは“私”が知って良い情報だけ。

例えば、西園寺眞の正体などは私自身の目で見なければならないそうだ。


「プレイヤーが何を考えているかは、プログラムの僕には分からないよ。けれどまだこのゲームは終わってないんだ」


答えを求めていた訳では無いのに、シロは少し申し訳なさそうに私の頬に手を添える。


「終わってない?」


「そう、まだフルコン出来てない。だからプレイヤーは“最初から”を選んだんじゃないかな?」


「ふるこん???」


「つまり、まだ見ていない。香織の知らない事を起こすって事かな」


また、よく分からない単語がでてきた。

シロはよくこのゲームの用語を使う。“こうりゃくキャラ”や“るーと”、“好感度”も用語らしい。


「つまり、“ふるこん”したらこの世界は終わるって事?」


私の問いに、シロは「どうだろう?」と曖昧に微笑んだ。せーぶの時のように体が動かなくなるのか?

それとも“えんど”のその先に進むのか。どちらかと言えば、せーぶに近いのではないかと私は思う。


(体が動かないのは嫌だけど、命を脅かされないしこうしてシロと話せるのだからまぁ悪くないのかもしれないか……)


とにかく、“ふるこん”すればいいのだ。やっぱり、誰のるーとにも入らないよう行動するのが正解らしい。私は体が動かないので心の中で拳を握る。


「やってやろうじゃないの!」

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