第6話 キス
「あ、あなたラビが何か知ってるの?」
ナディアは恐る恐る男性に話かけた。
「この子は僕の友達みたいなものかな。ラビって君が付けた名前なんだって?可愛いね」
そういうとラビの喉元を優しく撫でている。
「友達、魔物…だって知ってる?」
そう聞くと男性はじっと黙ってナディアを見つめた。
しまった!
つい知ってると思って言ってしまった…
この様子だと知らなかったのかもしれない!
慌てて否定しようかと迷っていると男性が話し出した。
「そんなの知ってるに決まってるだろ、だって僕も魔族だからね」
そう言って綺麗でサラサラな横髪をかきあげて耳を見せた。
その耳はとんがっていて確かに人とは少し違う気がした。
「魔族…」
話では聞いたことがあったが会ったのは初めてだった。
ほとんど人間と見た目が同じでわからなかった。
「本当は人と会ったりはしないんだけどね、君はこの子を助けてくれたようだったから特別だ」
「そ、そうなんだ。ありがとう」
ナディアが戸惑いながらお礼を言うと男性は意外そうにナディアを見つめる。
「へぇ、人間はもう少し怖がるかと思っていたけど…」
「そうですね、昨日以前に会っていたらもっと怖がって取り乱していたかも知れません…でも今は人の方が怖いと思ってるから」
現実を知って悲しくなり下を向いた。
すると魔族男性は立ち上がり私の手を取って優しく握りしめる。
「僕はそんな愚かな事はしないよ、ほらここに座って。今はゆっくりと休みな」
手を引いてラビの隣の椅子を引いてくれる。
家を追い出されて、町の人から冷たい目で見られ、男に襲われそうになりようやく優しく接してくれたのは人から恐れられている魔族だった。
「あ、ありがとう…ございます」
ナディアの瞳からはポロポロと涙がこぼれ落ちる。
魔物の男性は何も言わずにただそばにいてくれた。
ナディアは声を出して泣き出してしまった…
ひと泣きするといくぶんスッキリする。
腫れた瞳を擦り涙を拭くと顔を洗えばと外を指さされた。
外にはすぐそばに小川が流れており手をつけると冷たくて気持ちよかった。
思いっきり顔を洗う。
全てを洗い流す様に思いっきり!
「ぷっは!」
顔を拭いて小屋に戻るとお茶が入っていた。
魔族の男性は席へと促してくれる。
「ありがとうございます…」
お茶を飲むと体がポカポカと温まった。
「おいしい…」
「それはよかった」
魔族の男性は微笑み見つめている。
落ち着いて見るとかなり見目がいい、人間ならきっとかなりモテるだろう。
「あの、本当にありがとうございました!私ナディアと言います」
「僕はルシファー、さっき言った通り魔族だよ。もし怖いなら今すぐ出ていっても大丈夫だよ」
ルシファーさんは穏やかに笑う。
「もし大丈夫ならもう少しだけお邪魔させてもらってもいいですか…私今何もなくて、お金なら少しだけありますが…」
「お金なんていないよ、君を助けたのはラビを助けてもらったお礼だからね」
正直ほっとした。
荷物も取られてしまった今、所持金は手元にあるだけだったからだ。
ナディアは隣に眠るラビをそっと撫でる。
「あなたのおかげで助かっちゃった。ありがとう」
撫でても起きないラビの頭に軽くキスをした。
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