第2話居場所

ナディアは人に見られないようにそっと町を出た。


あの町にはいたくなかった。


近くの森まで来ると人のいない方いない方と奥へと進んでいく。


辺りが薄暗くなってきた頃大きな木の洞を見つけて今夜はそこで休むことにした。


腰を下ろしてカバンの中を確認する。


「着替えにお金がこれだけ…後は少しの食料…」


本当に最低限の物しか入っていなかった。


「これだけでどうやって暮らせって言うのよ!ボブロスキーの奴!」


ナディアは思わず持っていた食料のパンを握りしめて投げつけようとする。


だが思いとどまってパンを一口かじった。


「美味しい…」


こんな時でも、こんな時だからなのかパンは美味しかった。


それが無性に悔しくてナディアはポロポロと涙を流す。


「うっ…うっ…」


声を押し殺して一人暗闇の中泣いていると疲れからかそのまま眠り込んでしまった。




ガサガサ…


顔の近くで何かが動く気配にナディアはハッ!と目を覚ました。


「ギャッ!」


「きゃあ!」


すると目の前でうさぎに似た動物が起きたナディアに驚いてぴょんとはねた。


「びっくりした…」


うさぎは逃げると思いきや警戒しながらも逃げようとはしないでなにかを見つめている。


「あなたどうしたの?」


うさぎの見つめる先を見るとナディアの食べかけのパンが落ちていた。

どうやら食べてる途中で泣いて寝落ちしてしまったようだ。


「これが欲しいの?」


ナディアはパンを拾ってうさぎに見せる。


うさぎはパンを目で追っていた。


「ふふ、私はもう食べられないからあなたにあげるわ」


ナディアはうさぎの方へポンッとパンを投げた。


うさぎはパンをクンクンと嗅いで少し様子をうかがっていたがパクっとかじると森の草の影に消えていった。


「なによ、お礼ぐらい言ってもいいのに」


少し寂しくなって愚痴を言うとナディアはまた一人っきりになってしまった。


新たになにか食べる気にもならずに今夜はもう寝る事にした。


服を何枚か取り出して着込むと他は上にかける。


床は草と土だが仕方ない、ナディアは服を頭から被って目をつぶった。


しかし先程寝てしまったからか眠れずに暗闇なのか空を見上げる。


あかりはこんな時でも綺麗に輝く月明かりだけだった。


「お父様…ごめんなさい」


ナディアは空にいるかもしれない父親に謝った。


自分のせいで父親が今まで築いてきたものを全て奪われてしまった。


どうにかしたいと思うが自分には何もなかった。


ブルっ…


流した涙が冷たくて体が震える。

服を寄せて体を温めようとするとなんだか右側が暖かく感じた。


なんだろうと右側を見ると先程のうさぎがナディアの体に擦り寄っていた。


「なに、お返しに来てくれたの?」


パンのお礼かなとナディアは少し嬉しくなる。


うさぎのおかげで気持ちがポカポカしてくると眠気が出てきた。


ナディアはいつの間にか眠りに着いていた。

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