忘れ形見との疑似恋愛
氷河 雪
二人の母親と私
物心ついた頃には、父親はもう居なかった。
私、
私を産んだ方の
とにかく、私は二人の母親と幸せに暮らしていた……あの頃は、二人の事を「伶菜ママ」「寧音ママ」なんて呼んでいたっけ。懐かしいなぁ……でも、三人での幸せな生活は長くは続かなかった。私の実母の方の母さん……伶菜母さんが、病気で亡くなってしまったのだ。
遺されたのは、血の繋がっていない義理の母娘二人。呼び分けする必要がなくなってしまったので、いつからか呼び方は「寧音ママ」から「母さん」に変わっていった。
遺された母さんは、私を育てるために、一生懸命、これまで以上に働いているように見えた。私は、私の為に頑張る母さんの姿を見てきて、いつからか、例え血が繋がっていなかったとしても、例え義理だったとしても、娘が母には抱いてはいけない感情を抱いてしまった。
この感情による葛藤のせいで、高校生なのに、青春にも勉学にも全く集中できなかった、母さんは少しずつではあるもののやはり疑問が深まっていたようで、高校二年生の終わりが近づいてきた頃、二人で夕飯を食べている時に、現状について質問された。
「ねぇ、和花菜」
「どうしたの? 母さん」
「その……一つ訪ねたい事があるの。いい?」
多分、成績とか勉強の話かな。まぁ、少しずつではあるんだけど、成績下がっていっちゃってるし、やっぱり気になるよね、嘘はつかないけれど、適当にごまかして、とりあえずこの場を切り抜けよう。
「あ、うん……いいよ」
「……最近何か悩んでいるみたいだけど、大丈夫? 私でよければ相談に乗るよ」
……思ったより、込み入った話だった。
この大きくて今にも破裂しそうな悩みを話したいのは山々だが、この事を話した場合もしかしたら、私達二人の関係は終わってしまうかもしれない。でも母さんは優しいからそんな事はしないと思っている、いや、正確には私がそう願っているだけで、ありえなくはない話。だってあくまで私達は、「血の繋がっていない」親子なのだから。
「もしかしてそれは、恋の話?」
だんまりとしていた私に、追い討ちがかけられる。どうしてそんなピンポイントでわかったのだろうか、どんどん核心に迫ってくる母さんを目の前に冷や汗をかく。すぐに否定したいけど、嘘はつきたくない。だから私は、無言を貫く。
「……やっぱりかぁ」
なんて呟く母さん、そして、続けて衝撃の言葉が掛けられた。
「和花菜はさ、多分、私に対して、抱いてはいけない感情を抱いてしまったから、悩んでしまっているんじゃないのかな? 違う?」
核心に触れる言葉、もう私は、逃げる事はできなかった。
「……違わ……、……ないです……でも母さん、私の事、嫌いにならないで……気持ち悪がらないで……、……見捨てないで……」
終わりの恐怖に怯え、涙目になりながら、そう返し、審判を……返しの言葉を待つ。少し悩んだ後に母さんは。
「大学受験が終わるまで」
と一言、審議を問うために、私は言葉を返す。
「どういうこと?」
「私のせいで勉強に集中できないなら、大学受験が終わるまで、親子としてだけでなく、その、恋人として、疑似的に和花菜と付き合ってあげるってこと。もちろん他の誰にもバレない範囲で、だからね。合格でも不合格でも、一回目の受験が終わったらそこでまた普通の親子に戻る。私とずっと恋人になるために、ずっと留年されるのは困るからね」
どういう気の迷いか、受験が終わったらちゃんと親子に戻れるのか、考えたい事はいろいろあるが、目の前の甘い誘惑に私は抗えずに、「その、母さんがいいなら、よろしくお願いします」なんて、返してしまった。
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