第14話 生涯一コンテナのつぶやき

 私は、国鉄コンテナとして生を受けた。


C20 18624


 それが、私の型番。

 前半生の20年近く、全国を走り回った。

 東海道・山陽本線のブルートレインや特急列車にも、

 直流電車にも、交流電車にも、急行電車・気動車にも、

 あちこちで出会った。

 時には、蒸気機関車にも会ったっけ。

 そんなに多くはなかったが。

 国鉄が分割・民営化され、私はお役御免になった。


 幸いにも、再就職先が決まった。

 広島県三原市の、あの小さな島に。

 野菜の保存が目的だと、購入者のおっさんは言っていた。

 だが、実態は、人を閉じ込める舞台、だぜ。

 私は、そんなことのために生まれたのではないぞ。


 そして、あの事件。

 私のあの暗く暑い中で、子どもが二人も死んだのだ。

 もちろんあのおっさんは、逮捕されたよ。

 ああなるのは、時間の問題だったのではないかな。


 そのうち、島が騒がしくなった。

 青いビニールシートに覆われ、検察庁の札も貼られた。


 あの事件の起きた年の秋の日。

 岡山から、一人の大学生がやってきた。

 私や周辺の写真も撮っていた。

 背広姿で、年不相応なべっ甲風のカフスボタンをしていた。

 彼は黙って、見るべきものを見て、去って行った。

 かのべっ甲カフス君は、鉄道マニアだという。

 ひょっとすると、鉄道少年の彼と現役時代の私は、

 岡山あたりのどこかで会っていたかもしれない。


 やがて裁判は終わり、ビニールシートは外された。

 昔通りの、緑のコンテナに、戻れた。

 さすがに、現役復帰はもう無理だよ。

 広島に住んでいるというあのおっさんは、どこへやら。

 風のうわさでは、また捕まって、今度こそ刑務所へ。

 その後は、わからないよ。さすがの私も。


 私は、2023年6月22日に、解体・撤去された。

 これで私も、成仏できるだろう。

 あのときやってきた大学生は、今年で54歳だってな。

 情報筋によると、あの年の彼と同じ年になった姪もいるらしい。

 それもそうだ。あれから、32年も経ったのだから。


 最後に、現世を生きる皆さんに、一言。

 あの夏の日の事件、どうかしっかり、語り継いでおくれ。

 これが、国鉄の遺物・生涯一コンテナからの、ささやかな願いだ。

 

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