第十羽【しかく】

 トラの口から瑠璃色のエネルギーが飛び出し、ミユルに直撃した。


 ミユルの顔を包んだのち、俺の肩にも届いたが、誰かに殴られたというような衝撃で、それも弱々しかった。


 だがその光と、突然のことでおどろいたことによって、目を瞑ってしまい、その隙にトラはどこかへ姿を晦ませてしまった。


「ん"ん"ん"ん"...!! 突然何するんじゃ!


 どこに消えよった!? どこじゃ!?どこじゃ!?」


「え?...どこにいるかわかるんじゃなかったのか?」


「あれほど魔素が少のぉなったら、わからぬ決まっておろう!!


 虎竜こりゅうよ!一発殴らせろ!!」


 やっぱりただのガキだった。そういえば何歳ぐらいなのだろうか。


 後で聞こう。それよりもこれ以上ミユルを外に出しておくわけにはいかない。


 誰かに見られたらまずい。


 ひとまず抱えて、高校横の茂みに移動した。


「りんどー、アヤツの球はちゃんと持っておるか?」


「ん? あぁ、持ってるぜ」


「ではいつもの球と一緒に貸せ」


 言われた通りに薄紅色の球と萱草色の球を手渡す。


 ミユルが何度か球をぶつけて、カチカチと音を立てる。


「う〜ん? 上手くいかんのぉ...」


 ぼーっと眺めていると、二つの球が薄紅色に光りだし、目がくらんで前が見えなくなった。


 ギュッと瞑った目を開くと、ミユルの手には少し大きくなった薄紅色の球が。


「おぉ! 上手くいったぞ」


「合体したのか?」


「うむ!そうじゃ! これでもう少し強い魔法を使えるようになったはずじゃ!


 早速試してみぬか?」


 あぁ!今すぐ試してみよう、と行きたい所だが、どこで魔法の試し打ちをしようか。


 すぐ横の高校の校庭は部活で使っているし、山にまた行くのは嫌だし...


 そういえば山に行く途中に結構でかい公園があったな。


 人がいなかったら呪文を唱えてもいいかもしれない。


「そうしよう!とりあえず公園に行こうぜ」


「ん? 構わぬぞ」




「なぁミユル、どうしてあの生物の居場所がわかったんだ?」


「あれ? 言わんかったかのぉ?


 魔素を探知しとるんじゃ」


「魔素ってなんだよ」


「んン〜?......そうじゃ、お主らは魔素を知らんのじゃったな。


 魔素は魔法を使うためのモノで、いつの間にか、どこからか生まれたり、ワラワ達の身体の中で生まれたりするんじゃ。


 この世界は何故か魔素が少ないからのぉ、知らんのも当然じゃの。


 これがないとワラワ達は死んでしまう」


 つまり、ゲームにMPみたいなものか、自然回復するみたいだし、結構便利そうだ。


 しかし、今までとは違う、落ち着いた声で話しているため、どうしたのか気になってしまった。


 視線を肩のミユルに送ると、神妙な面持ちだったため、どうした?と聞いてみたら。


「あの虎竜のことが気になってのぉ...」


「虎竜ってさっきの?」


「そうじゃ。アヤツは魔素をひどく消耗しておった。


 この世界の魔素が少のぉなかったら探知はできんかったほどにな。


 体格から察するに呪文を二、三発は自力で唱えたのじゃろう。


 そのうえワラワ達に一発。


 もう死んでるかもしれぬ...」


「ミユル.........




 無理して賢そうな振りしなくていいんだぞ...?」


「ンなんじゃ貴様ァ! ワラワのことを下に見過ぎじゃ!!」


 その後、ミユルは自分のことを、天才だと言ってきた。


 どの発言をとっても紙一重な気がするが...


 そうこうしているうちに公園について、早速呪文を唱えてみることにした。

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