前に進みたい(中)

新学期が始まりまだ一日しか経っておらず体育館が使えない状況のため部活がないのはわかっていた。

そのため飛騨の帰宅は明白だった。取り巻きたちは部活だろうか。これはチャンスだ。

学校の中ではとり巻きなど周りの人間が多い。そのため一人の時彼はどんな行動や仕草を取るのかわからない。

この機会を逃すわけにはいかない。

なにか収穫を得たいものだ。

ここで、「尾行していることばれないの?てか尾行とかキモすぎww」

と思われるかもしれないが安心してほしい。

帰り道が途中まで一緒なのだ。これまで何回か帰り道で見かけたことがある。

そのため下校しているという大義名分のもと堂々と尾行しているのだ。・・・俺キモいな。

感傷に浸っていると、大きな交差点の前でお年寄りのおばあちゃんと飛騨が話していた。

おばあちゃんは両手にパンパンのビニール袋をもっていた。そのビニール袋を飛騨に渡していた。人助けか。これは健的にポイント高いな。

飛騨はおばあちゃんのビニール袋を持ちおばあちゃんの歩くスピードに合わせゆっくりと歩いていた。

ちなみにもう信号は点滅していて俺は渡ることができなさそうだ。

交差点を渡り終えた飛騨はおばあちゃんにビニール袋をわたし何か言葉を交わしわかれた。

信号が再び青になり駆け足で飛騨を追いかけた。

あまり飛騨との距離は離れておらずすぐ追いつくことができたのだが、飛騨は小学一年生くらいの男の子と話していた。

その男の子は泣いていて膝に擦り傷を負っていた。

なにか話した後、飛騨はその男の子をおぶり普段の帰宅路から外れた道を歩き出した。

しばらくそれについていくと飛騨は普通の民家の前で男の子を降ろした。男の子がその民家に入っていくのを笑顔で見送っていた。

なるほど飛騨は老若男女問わず知らない人に救いの手を差し伸べる人間なのだということが分かった。

これは健的にも世の女性たちにもポイント高いのではないだろうか。

これでなんとなく飛騨の人間性は理解できた。

まあ今日の収穫はこんなところだろう。

普段の帰宅路とは外れてしまったため少し遠回りになってしまったがそろそろ俺と飛騨の帰宅路が分かれるはずだ。

そこまで観察して今日は終えたいと思う。



そのはずだった。

飛騨が男の子と別れて三十分、飛騨はまた人助けをしていた。

飛騨は男の子と別れた後、町内会のポスター貼りをしているおじさんに声をかけその仕事を手伝い、それが終わったと思ったらスマホとにらめっこしながら周りをきょろきょろしているサラリーマンに話しかけ道案内をし、またおばあちゃんの荷物持ちをしていた。

な、なんだこいつ。

えらいとかいいやつとか超えてもうホラーだよ。

わかった。

こいつは自ら人を助けに行くやつなのだ。じゃなきゃこんなことにはならない。

それにしても多くない?

なに、アニメとかでよくあるそういう体質なの。困ってる人が寄ってくるみたいな。

主人公すぎだろ。だる。やってられないわ。

もうなんかイライラしてきた。次こいつ人助けしたら無視してもう帰ろう。

と勝手にキレながら歩いていると、青いランドセルが一つ俺を追い抜いた。

「なつはやくしろよー!はやくしないとおいてくぞ!」

青いランドセルを身にまとった少年は後ろに大きな声で叫んでいた。

すると今度はガサゴソガサゴソと教科書が揺れる音がこっちに近づいてきた。

「よーくんおいてかないでよー」

揺れた教科書はそう叫びながら俺を追い抜いていった。

赤いランドセルを身にまとった少女は必死に少年の後を追いかけていた。

そんな少年はしびれを切らしたのか少女が追いつくのを待ち追いついた少女の腕をとり引っ張りながらまた駆け出した。

その光景を見た俺は、

「いいなあ・・」

と失くしてしまったあの頃を思い出しながらつぶやいていた。


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