町に灯油の雨が降る
石草八尋
町に灯油の雨が降る
『箱庭』の燃料が尽きてきていた。
燃料を供給したのはたった一週間前のこと。計画的に使ってくれと念じているにも関わらず、箱庭の中の人々は一向に燃料の使い方を省みる気配がない。うんざりしながら燃料を供給しようとしたが、ふと妙案を思いついてストーブから余りの灯油を持ってくる。じょうろに灯油を注ぎ、箱庭の世界に撒いた。
化石から燃料を作って地下に設置するのは面倒だなと前々から思っていたのだ。このほうが楽に燃料を供給できるはず。息が詰まるような臭いの雨が箱庭の中に降り注ぎ、箱庭が異臭にどよめいた。
あるヘビースモーカーの男がその臭いに苛立ち、気持ちを落ち着かせるためかポケットの煙草に火を付ける。
深く吸い込みタバコをくゆらせると、タバコの炎がコンクリートに落下した。灯油に濡れたコンクリートに引火した炎が、またたく間に狭い箱庭の中を燃え広がる。火の海になった箱庭の中は阿鼻叫喚の渦に呑み込まれた。喧騒は数時間に渡って続いた。
やがて静かになった街は、至るところが真っ黒に焦げていた。店や家々が崩壊し、咽び泣く人々がちらほら見受けられる。
やはり横着するのじゃなかった。箱庭の様子に頭を抱えて後悔する。もとに戻すには骨が折れそうだ。溜め息を吐きながら、修復作業にとりかかった。
町に灯油の雨が降る 石草八尋 @aa0783
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます