第16話 絵師爆誕

「――という訳で、しばらく画家見習いのミゲルくんが、『めろでぃたいむ』に密着! しちゃいまーす」

「ええ? 画家ですか」


 キャロルはびっくりした顔もかわいい。……じゃなくて。


「近日中に、握手会イベントをします。そこに印刷する絵を彼に描いて貰う為に、みんなの性格や好きな物なんかを教えてあげて欲しいの」


 それを盛り込んだカードができたら素敵じゃない?

 そんな訳で、ミゲルがめろでぃたいむの寮に出入りすることになった。


「わーっ、すごい! これ、イルマ? そっくり!」

「セシル……私こんなに美人じゃないわ」

「そんなことないよぅ!」


 みんな、ミゲルの描く絵に興味津々で、全方位を囲まれたミゲルはちょっと困った顔をしていた。


「あー、じゃあミゲルの前で一曲踊ってあげて」

「はーい」


 レッスン場に移動して、みんなは代表曲の「めろでぃたいむ」を踊った。


「わぁ……こんな、ぼく一人でいいんですか」


 ミゲルは目をキラキラさせつつ、筆を走らせている。


「絵の為だもの」

「……頑張ります」


 それからミゲルは本当に真面目に、メンバーのダンスする様子や、個人個人に聞き取りをして、絵を完成させた。


「うわーっ、凄いじゃない!」


 ただ肖像用にかしこまっているポーズではない。

 キャロルはセンターらしく正面を向いてかわいく手を広げている。アイラは片足をあげたアイドルポーズ、イルマはしっとりと両手を組んで、セシルはガッツポーズをしている。そしてクリスティーナは腰に手を当て、モモはやっぱりにゃんにゃんポーズ。ルルは投げキッスをしている。


「うーん、それぞれの特徴がよく出ているわ。よし! これを持ってミゲルのお師匠様のところに行きましょう」

「大丈夫でしょうか……こんなにみんなに協力してもらったのに、もし駄目だったら」

「今から弱気にならないで。これは素晴らしい絵だわ! どーんと胸を張っていきましょう」


 こうして、私は馬車を急いで走らせてミゲルと首都へと向かった。


「工房はあちらです」

「まぁ……」


 ミゲルが案内してくれたのはとても大きな工房だった。こんなに立派な工房に弟子入り出来るなんて、才能があるのね。

 工房には沢山の人が忙しく出入りしている。その間を縫うようにして、私とミゲルは奥へと向かった。


「師匠! 勝手に留守にして申し訳ございません」

「……なんだぁミゲル。俺は夜逃げでもしたかと思ったぞ」


 そこに居たのはいかにも頑固親父という感じの眼光するどい男性だった。


「師匠から人物の描き方がなってないと言われて勉強してきたんです」

「けっ、じゃあ見せてみろ」

「これです……」


 ミゲルは震えながら、めろでぃたいむの絵を師匠に差し出した。師匠はそれを受け取ると、しばらくじーっと眺めていた。


「これをお前が」

「はい」

「……良くなってる」


 ミゲルの師匠は唸るような声を出して、顔をあげた。


「前のかかしみてぇな絵からは考えられん」

「師匠から聞いた舞台の公演を見て、これが描けたんです」

「そりゃよかった。……ところであんたは誰だ?」


 師匠と弟子の感動シーンを見ていたら、急にこっちに視線が飛んできた。


「えーと、私はミゲルに絵を頼みたい依頼主です」

「その身なりからすると貴族か」

「ええ。私、モンブロアで、この歌や踊りをする公演をする事業をしてます。そのグッズ……ええと、お土産品にこのミゲルの絵を使いたいと思ってますの」

「なんだって……?」


 私がそう説明すると、師匠は低い声を出した。


「そりゃあいかん」

「何でですか?」

「ミゲルはまだ一人前じゃねぇからだ」

「ソレが理由なら、こっちだって諦められません。私は修行を終えたかどうかじゃなく、『めろでぃたいむ』を好きでいてくれる人に向けての絵を描ける人が欲しいのです。そして、ミゲルはそれができる人材です」


 私はきっぱりと言い切った。そんな私を、師匠は真っ正面から見据えてくる。


「……それなら条件がある」

「なんでしょう」

「ミゲルの絵を使うのはかまわん。ただしこいつをしばらくモンブロアに連れてってくれ。こいつはまだ伸びる」

「ええ。うちの屋敷に専用の部屋を用意します」

「では……いたらない奴だがよろしく頼む」


 はい、頼まれました。工房を出たミゲルはほとんど泣きそうになっていた。


「ぼく……やれたんですかね」

「ええ。師匠はミゲルにもっと期待してるわ。答えないとね」

「はい!」


 モンブロアに帰ると、さっそく私は屋敷内にミゲルのアトリエを作った。そこで、ミゲルはさらにバージョン違いの下絵を作成していく。いいわね、お客さんには全コンプリートを目指して貰いたい。


「はい、もう動いて大丈夫です」

「お疲れ様にゃん!」


 今日はモモの絵を描いているところを、私は見学している。


「リリアンナ様。今、ぼくは凄くやりがいを感じて幸せです」

「そう、良かったわ」

「だけど……いいんですかね。メンバーとふたりっきりで、ファンに怒られそうです」

「それは専属画家の特権よ」


 軽い感じで答えたけど、何かが引っかかった。特権……特権……そうだ!


「思いついた!」

「わあ! なんですか?」

「それぞれのメンバーのカードに一枚おまけをつけましょう」

「おまけ……?」


 ミゲルが首を傾げる。


「アタリの人にはメンバーとのツーショットの絵を描く素敵な時間をプレゼント! ……どう? できる? ミゲル」

「できます!」


 よっしゃ、カメラがないからチェキ会は諦めていたけど、これは実質チェキ! 貴族ってのは自分だけの、とか特権大好きだもの。きっとウケると思う!

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