第6話 レッスンスタート☆
キャロルの友人たちを合格にした私は、屋敷の離れを丸々、彼女たちに寮として使って貰うことにした。
急遽、家具屋や仕立屋を呼んで、生活に不便のないように、部屋を整え、着替えも用意する。
「みなさん、こちらをお使いください」
スージーが、離れの扉を開けると、みんなが息を飲んだのがわかった。
「うわぁ」
「いいんですか……こんなところに住んで……」
そこはまるで夢の国。天蓋つきのベッド、フリルとリボンのクッション、パステルカラーのクローゼット。
「いいのよ。みなさんのかわいいはかわいい空間で育まれますの」
驚いている彼女たちに私は、個室の鍵を渡していった。
どうか、この部屋でゆっくりくつろいで欲しい。だって……。
「これから過酷なレッスンが始まるのですもの」
私の呟きは、大喜びで部屋を見て回っている彼女たちには聞こえていないようだった。
「『めろでぃたいむ』!?」
「ええ。それがこのグループの名前ですわ」
翌日、ミーティングルームを兼ねた寮の共有ラウンジで、私は彼女たちにそう告げた。
えへへ。三日も悩んでしまった。かっこいい名前や、奇をてらった名前もあったんだけど、最終的にシンプルにかわいいグループ名にしてみました。
「いいんじゃないかしら、覚えやすいし」
キャロルがそう言うと、皆頷いた。
「そして構成は、キャロルがセンター、メインのボーカルね、そしてサイドボーカルがアイラとイルマ。クリスティーナ、セシル、モモ、ルルはダンスがメインになります」
「ダンス……わたしに出来るでしょうか」
セシルは早くも不安そうな声をあげた。
「大丈夫、レッスンは懇切丁寧にやりますから。あとはそれぞれのやる気次第」
「僕は絶対にまけないぞ」
ルルがそう意気込むと、モモも立ち上がって拳を掲げた。
「モモもがんばりま……がんばるにゃ!」
「うん、期待してるわ」
「チッ……」
クリスティーナは舌打ちをしている。
とにかくここに居れば、衣食住は保証付き。でも、さらに収入を得るためにはこれから頑張らないと、なのだ。家に送る仕送りやお小遣いが欲しければ、それはこれからの頑張り次第。もちろん、そのサポートも売り方も全面的にお手伝いします。
だって私はプロデューサーだもの!
「それでは『めろでぃたいむ』結成に乾杯!」
「乾杯! プロデューサー!」
私たちはグラスを鳴らして……ジュースで乾杯した。
***
「さぁ、子猫ちゃん達! レッスンの時間ですわよ!」
私は特別に仕立てさせたレッスン着を身につけて、寮内のレッスン室の扉を開いた。
「この服、動きやすいですね!」
キャロルは嬉しそうにくるくる回っている。
「ええ、運動するにはいつもの服装ではやりにくいですから」
めろでぃたいむのメンバーも、同じレッスン着を着ている。袖口をゆったりとさせたブラウスに、キュロットパンツ。女性のスポーツなんて乗馬くらいしかないから、仕立屋に意図を伝えるのに大分苦労した。
さて、レッスン開始。準備運動と基礎練習を最初は徹底的に行う。
「はい、わんつーわんつー」
それから簡単な振り付けも同時並行で行っていく。アイラを除く皆はアイドルダンスがどんなものか知らない。イメージしてもらう為にも必要かなって。
「うーん?」
でもやはり見たことのないものを踊れっていうのは難しいみたい。
「ラインハルト! ちょっと手伝って!」
「なんだい」
私はレッスン場にラインハルトを連れてきて、ピアノの前に座らせた。そしてアイラを手招きする。
「アイラ、一ツ木通り少女旅団の『ネバーエンドチョコビート』踊れる?」
「ええ。コピーしたことあります」
「良かった、じゃあラインハルト。この曲を弾いてちょうだい」
「あ、ああ」
ラインハルトは戸惑った顔のまま、ピアノを奏ではじめた。イントロと同時に踊り出す、私とアイラ。サビまで踊りきったところで私は手を叩いた。
「はい! こんな風に踊って貰います」
「難しそう」
「こう……かな……」
みんなまだたどたどしいけれど、なんとなくイメージが湧いてきたみたいだ。
しばらく振り付けをなぞりながら、繰り返していると、徐々にみんな振り付けを覚えてきた。
アイラはもちろん抜群の安定感。かわいい角度や魅せ方を知っている。キャロルはみんなよりも練習期間があった分、踊れている感じ。イルマも意外と踊れるわ。クリスティーナも無表情だけどしっかり踊っている。
中でも飲み込みがいいのはモモ。獣人の血が入っているから運動神経がいいのかしら。それからルルはキレがいいわね。で……問題なのは……。
「ああっ……」
自分の足に引っかかって盛大にセシルが倒れた。
「もぉおおお~」
なんとか起き上がってもう一回。
「1.2.3~で首を傾げて! はい!」
「1.2.3~」
「んもーっ!」
セシルはやっぱりついていけない。
「セシル! また遅れた! なんなのあんたは牛かなんかなの」
とうとうクリスティーナが怒り出した。
「ち、違うもん……」
「セシル! 大丈夫よ、一緒に頑張りましょう」
イルマがセシルに優しく声をかけた。しかし、セシルはイルマの手を払いのけた。
「無理よ! 私不器用な牛だもの!」
「それは違うわ、セシル。あなたはお客様にパフォーマンスをお見せするという意識と、この曲への理解がまだ深まってないだけ」
私ははそう言い切った。ラインハルトはそうかなぁ……と首を傾げているけど。
「いいですか、『NEVER NEVER エンドレスに止まらない、チョコに思いをこめて』ここで本当にチョコレートを届ける気持ちでやらなければ」
「プロデューサー……」
「さあ、立ち上がって! ラインハルト、伴奏を」
「はーい」
セシルはノロノロと立ち上がり、ラインハルトの伴奏がはじまった。
「NEVER NEVER、1,2,3~」
「いいわよ!」
「エンドレスに止まらない、チョコに思いをこめてっ!」
「そう!」
「……できた……?」
セシルが自分の手を驚いた顔で見つめる。そんなセシルに向かって私はウインクをした。
「よかったわよ」
「プロデューサー!」
「それじゃ最後まであわせるわよぉー」
私とアイラのの見本に合わせて、めろでぃたいむのメンバーたちは踊った。
「カワイイ! こっち見て!」
私は汗だくになってがんばるみんなの姿に、胸が打ち震え歓声を上げた。
「大体こんなもんね。細かい所はあとでなおしましょう」
私がそう言うと、めろでぃたいむのメンバーたちは手を取り合って喜んだ。
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