第22話 旅立ち

またあの景色だ…

いつも同じ夢を見ていた。

憎悪と嫌悪に囲まれたあの生活。

昔から頭は良くなく、友達も殆どいない。

特技なんてものはなく、学校では目立つこともなくいつも教室の隅にいた。

家でも親族の集まりでも、無能な自分には居場所がなかった。いつも自分の存在は要らないものだと思っていた。いつも死ぬことばかり考えていた。

だが、異世界に飛ばされてから、自分を縛る鎖がなくなったように感じた。

自分を知っている奴もいない、何かのノルマに追われる事もない。自分で思った通りの生活を自分自身で作っていける。ここでは街の人も宿の人も、あの世界とは違って優しいし温かい。ここなら自分が必要としてくれる、認めてくれる、そう思っていた。だが、ここもあの世界と同じだった。

絶望した。だが、あの時を境にそれは変わった。そう、あの時から…




「さて、これでよしと…」

1人の男の影が寺院の最新部にある祭壇で何かをしていた。

そこには、神聖陣が描かれていて、その周りに、青、赤、黄、緑、紫の手のひらサイズ程の透き通った玉が、神聖陣の周りにある5つの窪みにそれぞれ置かれていた。

「こっちは準備が終わりました。」

祭壇のある部屋の入り口から小柄な女の子の影が祭壇に向かって走ってきた。

「よし、こっちも準備が終わった。こっちにきてくれ。さぁ、行こうか、レノア。ジパングへ」

「はい、カイ様」

「怖くないか?初めての転送陣だから、失敗するかもしれないが…」

「いいえ、あの時からあなたを信じてるので、怖くないです。」

「そうか、行くぞ。アストレイ」

2人は次第に青い光に包まれて行き、目も開けられないほどの光に包まれた瞬間、2人の姿は見えなくなり、青い光が大空まで上に突き抜け、夜空を流星のように東の空へ流れ、空の果てへと消えていった。




その出来事から2週間後、ヴェルカたちは、イシスの東の果ての街、エレナントに来ていた。騎士団からの指名依頼で、エレナントの北東15キロに現れたドラゴンの討伐依頼が回ってきたからだ。そのドラゴンには、エレナントの冒険者達が束になっても敵わず、討伐できなかった事から、ヴェルカ達勇者一向に声が掛かったという事だ。

「よし、じゃあみんな行くぞ〜」

ジャンの掛け声で、ドラゴンのいる場所へヴェルカ達は歩き始めた。


4時間程歩いて、ドラゴンが目撃された場所へ到着した。

「あれ〜全然ドラゴンなんていないじゃーん」

リーシアが前に飛び出して、目の前にある崖を覗き込んだ。

すると、太陽の中から小さな影のようなものがあるのがみえた。

「なんだあれ…」

リーシアがつぶやいた。

だんだんとその影が大きくなってくるのがわかった。

「まさか…あれは…神龍か…」

「神龍⁉︎ セルカ、それって確か…って、避けろリーシア‼︎」

「え?…」

ジャンの叫びにリーシアが反応した瞬間、急降下してきた神龍の爪がリーシアの首元をかすめ、リーシアの顔が宙に上がった。

その一瞬、全員の時間が止まった。

宙に飛んでいるリーシアの頭に、ヴェルカ達は釘付けになった。

そして、リーシアの頭が地面に落ちた時、バッという音で、ヴェルカ達の時が動き出した。

ヴェルカ達の目の前に、神龍が降り立った。

「嘘だろ…」とジャンは言葉を漏らした。

ヴェルカ達の前に災厄級の敵、神龍がヴェルカ達の前に立ち塞がる…

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る