010 魔科学師ゼオスの実力③
(奥にもまだいるな)
『マスター。残存は1割切ってます。生還者をある程度残すべきでしょう』
(そうだな。光羅宮に化け物級の魔科学師がいるって広めてもらわないといけないしな)
最後方にいるってことはこの戦いに消極的だった。生きてヨシ! そう思うことにしよう。
だが。
「な、なんだおまえは! って貴様、ファナディーヤか!」
「ルゲル様御機嫌よう」
「てめぇ……女のくせにこんな化け物を雇いやがって、ふざけてんじゃ」
こいつを生かすつもりはない。
「フォトンアロー」
「ぎゃああああっ!」
威力最小限にして足に突き刺してやった。苦痛に顔を歪ませて、地面に這いつくばらせる。
こいつの汚い言葉を聞きに来たんじゃないんだな。
「無詠唱で……こんな術を! 何なんだ……」
「このお方は、一昨日魔王を討った方ですわ。十神将には連絡しませんでしたが」
「このガキが!? そんな話聞いてねぇぞ!」
ガキって一応今年で20才だからそんな若くもないと思うんだが……。
俺はランチャーモードのクロをルゲルに向ける。
この俺がたくさんの兵をぶちのめしていたところを見ていただろう。
魔道士5000人がたった1人の魔科学師に倒される。俺を倒すなら魔科学師1000人はいるぜ。
大した魔法の使えない魔道士が束になっても勝てやせんさ。
「特におまえに聞きたいこともないし死んどくか」
「待て待て待て!!」
ルゲルは慌てて停止の言葉を口にする。
「それだけの力……魔王様を倒したのは本当なんだろう。ならっ俺と組まないか?」
「ほう」
「光羅宮の女を今から独占するんだよ! 俺とおまえが組めば他の十神将も手出しできない」
「ふむ」
「後ろの女を犯しまくろうぜ! おまえもその方が絶対いい!」
「フォトンアロー」
「あああああああ!」
5本、腕や太ももにぶっ放してやった。
「考えの相違だな。俺も女は好きだし性行為もしたいが、犯しまくるなんて言葉を使わない。おまえみたいな奴は反吐が出る」
「こ、殺さないでくれ! し、死にたくない」
「でもマナリアって子の家族を皆殺しにしたんだろ。あの世で謝らないとな」
ルゲルは傷を負いながらも立ち上がり、ゆっくりと下がっていく。
何かを狙っているのか。まぁ……万に一つも勝ち目はない。
「おまえには敵わない……」
ルゲルは左手に持っていた杖を翳す。
「だったら、その女はどうだ!」
ファナディーヤに向けて火炎弾を放つ。
「庇ったところを得意の風魔法でっ!」
「必要ない」
迫る火炎弾にファナディーヤは防御体制を取る。
だが事前にファナディーヤの周囲にプロテクションバリアを貼っていたため攻撃が当たるはずがない。
さらに言えばバリアにカウンターアローのプログラムを打ち込んでおいた。
ファナディーヤへの攻撃はバリアで打ち消されて、代わりにバリアからフォトンアローが飛び出て、ルゲルの肩に刺さって武器の杖を落とさせた
防御魔法に反撃魔法を仕込むなんて常識だ。迂闊な攻撃は身を滅ぼすぞ。
「がはっ!」
「やはり、おまえは死んだ方がいいやつだな。よし、最期に聞かせてくれ」
俺は一旦クロを背負うような形で取り下げることにした。砲身は天に向いている。
「おまえ疾風のルゲルって呼ばれてるんだろ? 疾風ってなにが由来なんだ?」
「そ、それ……は!」
ルゲルは懐から小杖を抜き取る。今まで見てきた誰よりも早い詠唱で風魔法が出現した。
「魔王を上回る1.2秒で風の上級魔法を放てることだぁぁぁぁぁぁ!」
「そうか。まぁ俺は0秒だけどな」
(クロ、ダークネスブラスター自動発動)
『すでに放っています』
背負った状態だとクロの砲身は天に向かっているがそこから放たれたダークネスブラスターが天に向かって放射。
しかしそのまま砲撃は曲がってルゲルの体に降り注いだ。
「ああああぁぁぁぁぁぁ」
砲身が真っ直ぐに向いてないから大丈夫だと思ったか? 残念、曲射も自在にできるんだなコレが。
当然風魔法も具現することなく、魔力の濁流にのみこまれて跡形なく消えてしまった。
最新型のグロースツールはマスターが動かさなくても自立行動することができる。
万に一つも負けることなんてありえないんだよ。
決着だ。残存兵も慌てて逃げ出していく。
こちらを攻撃してこないなら放置してもいいだろう。大した相手にはならん。
振り返るとファナディーヤが驚いた様子を見せていた。
「ルゲルは十神将の中でも最弱ですが、ここまで簡単に勝つことができるなんて……」
「メシの分くらいにはなったようだな」
「はぅ……」
その時ファナディーヤがゆっくりと崩れ落ちてしまったのだ。
バリアは完璧だったはずだがもしかして被弾してしまっていたのか。
「お、おい。大丈夫か」
「申し訳ありません。気が抜けてしまったのです……」
そうか光羅宮の女性陣からすれば危機的な状況を脱することができたわけだ。
取りまとめていたファナディーヤの負荷も大きかっただろう。
「君はよく頑張った。姫達の代表として怖かっただろうに」
その彼女の勇気ある行動のおかげで俺も上手く動くことができた。
年下であるこの女の子を労わるため、へたり込むファナディーナの頭を撫でることにした。
「君達の勝利だ」
「……」
「おっと嫌だったか?」
「いえ」
ファナディーヤは頬を緩ませた。
「とても良い心地でしたわ。ゼオス様のおかげですわね」
ファナディーヤに笑顔で言われて胸がどきりとする。
正直な所、頼られてすごく嬉しかった。誰かのためになれることがこんなに嬉しいものだったのか。
久しく忘れていた感覚に思える。
「ここから去るぞ。立てるか?」
「そ、その腰が抜けてしまいまして……、もしよろしければ抱いてくださいませんか」
「よろこんで」
『マスター、最速で受けましたね』
(うるせぇ。こんな機会滅多にないんだからいいんだよ!)
ファナディーヤを正面から抱っこして空へと浮かび上がる。
もはや戦場でやることはない。俺はファナディーヤを抱え、ファナディーヤも手を俺の背中に回して捕まりながらゆっくり光羅宮へと戻った。
『マスター、心拍数の増加が見られます。あと目線がファナディーヤ様の顔と胸をいったりきたり」
(クロ、ボイスOFF)
出来るだけゆっくり飛行し、この時間を楽しんだ。
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