第17話:情報部として、ではなく
それからひと月ほどが経ち、百周年祭までもう五十日を切った。
催事課との折衝は、本来の輝きを取り戻したアンナが主導するようになり。ジェフが課長になって変わったらしい催事課は彼女を受け入れたようで、毎日楽しそうに外回りをしている。
俺はと言えばエルフのテント村でタルヴォさんやミルカたち若いエルフにプロジェクトの説明や百周年祭での協力を依頼したりと忙しく。
すっかり暑い夏が訪れた頃、決定稿を作った催事課からアンナを通して注文された品物を、郊外の催事課スタジオまで運んできた。
「こいつはどう思う?」
「もう少し配置ずらしてもいい気がしますぅ。ジェフさんが見せたいのはアレの方ですよねぇ」
「……ふむ、一理あるか」
「おっすおっすふたりとも、情報部に探してもらったやつ、持ってきたぞ」
難しい顔でミニチュア模型を睨み話し合う二人の後ろから声をかける。
「やっときたか。アンナ、行くぞ」
「はぁい! 係長、ありがとうございますぅ」
「おい、無視は酷く……」
「黙ってろ素人」
ギロッとジェフに睨まれたが、その重圧をアンナが大分緩和してくれたので。
「係長、こっちは大丈夫ですからぁ。色々頼み事まとめたんであとで送りますぅ」
「はい」
俺は小さく返事をして大人しくスタジオを出る。
「んだよもう……ありがとうくらい言えよな」
本当に怖かった。漏らすかと思った。
外のベンチで愚痴りながらアイスコーヒーを飲んでいると、配送業者の格好をした半獣人の美女が横に腰掛けた。
「暑い。本当に、納品の仕事は大変ですわね……」
「ああ、ヒルダさん。わざわざ手伝ってもらったのに、あいつらったらお礼もなくてすみません」
舌を出し、ハァハァ息して色っぽ……いや、とても疲れた様子の彼女に、用意しておいたアイスコーヒーを渡す。
もう、彼女を見るのはやめよう。
「いいえ。運動は健康に良いので。しかし、大昔の家具や雑貨に衣料品……博物館との交渉はなかなか大変でしたのよ」
「申し訳ない……」
「本当に。職人とは厄介なものですわね」
「全くもって同意しますよ。……ところで、一緒に頼んだ例のアレは……」
なにしろ帝国一有名な金細工師様に結婚指輪を頼んだので。
情報部に頼むことかと言われても、彼の予約は十年待ちだからこれしかなかった。
我ながら公私混同甚だしいと思うけれど、愛と戦争にルールはいらないんだよ。
「勿論。無理矢理予約をねじ込みました。これで私個人の、貴方への借りはチャラとさせて頂きますわ。本当に、本当に大変だったので。ちゃんと来月までに代金支払って、受け取ってくださいね……!」
「あはは……ところで、借り? なんかありましたっけ?」
ぺらっと渡された予約受付の小さな用紙に書かれた金額の桁の多さと、ぐるると唸って紅い目を光らせるヒルダさんの迫力を笑ってごまかしたところで、ふと気になった。
聞いてみると、彼女はこほんと咳払いをして、照れくさそうに頭を掻く。
「はい。非常に大きな借りが。いずれお話する機会もあるでしょうが……」
「……?」
「内緒です。それでは、また。ご祝儀もいずれお渡しいたしますので」
何の話だろうか。さっぱり見当がつかなかった。
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