第11話:ご心配をおかけしました
そんなこんなで午前中の仕事をサボってしまったが。
お叱りを覚悟で登庁すると、既に情報部が手を回した後だった。
「あっ係長! 風邪引いたって聞きましたからぁ、お薬買ってきましたよぉ」
「病院から連絡来た割には元気に見えるけど、本当に大丈夫? 休んでいいわよ?」
俺を見つけたアンナが心配そうな顔をして、薬局で買ってきたらしい袋を置く。
ザフラもなんだか落ち着かない様子で声を掛けてきて、本当に申し訳なくなった。
「あー、部長。これ診断書です」
アンナに本当のことを言うともっと心配するだろうし、ザフラにだけは教えておこう。
診断書と言ってヒルデガルトさんの名刺を見せると、彼女は一瞬目を見開いて。
やれやれと首をすくめて、呆れた声で言った。
「はぁ、あんた凝り性だから、身体気をつけなさいよ。いつか死ぬわ」
「……気をつけとく。今回のプロジェクト、思ったより深掘りしちゃったかも」
「なんかあったら責任は取るから。好きにしなさいな」
情報部に目をつけられたことに同情されて、心配もされて。
任せておけと胸を叩く彼女に迷惑かけてばかりだなと、頭を下げた。
「いつもすまないねぇ」
「優秀な部下のためでございましてよ」
冗談めかして笑い合っていると、アンナが不満そうに頬を膨らませていた。
「えー、いきなり二人の世界に入らないでくださいよぉ」
「ごめんごめん。それじゃあアンナ、儀典局から連絡来てたか?」
「来てますよぉ。ジェフさんすごく喜んでたみたいですぅ」
「なら次はその資料を読んで、アンナの意見を見せてくれ」
「はぁい!」
元々儀典局にいたなら、俺より催事の素質はあるだろう。
とりあえず、得意なことをやってもらおう。
「あのアンナを働かせるの、凄いわねアル」
「思ったより普通の子だよ。格好はヤバいけど」
可愛い部下を自分のデスクに送り出すと、隣のザフラがしみじみと言った。
俺からの率直な評価を述べると、彼女は昔を懐かしむように呟く。
「ありたい自分を通すって、大変なことよねぇ」
それには全くもって同意で。俺もなんだか懐かしくなった。
「……そうだな。ザフラは子供の頃の夢とかあった?」
「なによいきなり。お酒なら付き合ってもいいわよ」
明日のタルヴォさんとの話は、昔話から始めようかな。
そんな事を考えつつ、俺も事務仕事をして。
定時の鐘が鳴り、俺は一応病人ってことになっているからと、席を立った。
「アル、行きましょっか」
「え、部長もう帰るんですかぁ!?」
俺に続いてザフラが席を立つと、ずっと真剣な顔で色々書き込んでいたアンナが驚く。
そんな彼女の姿に、ザフラも一緒になって驚いていた。
「この私が珍しく定時で帰ると思ったら、珍しい子が残業するとはねぇ。無理しないでよ」
「アイディアは出たんでぇ。終わらせたら帰りますぅ」
「頼もしいじゃあないか。よろしくな」
「係長もぉ、ちゃんと体治してくださいねぇ」
優しいなぁ。仮病したみたいでちょっと申し訳ないけど。
ほんの少し清々しい顔をした、ちょっとだけ大人の顔になった気がするアンナを置いて。
ザフラのコンドミニアムの敷地内にある、おしゃれでお高いレストランに向かった。
「ジェフ、奥さんに愛想つかされたのか……」
「出産で入院してんだよアホ」
「子供産まれるのか! そりゃめでたいな!!」
「……ありがとよ」
「ジェフ課長。私からも、おめでとうございます」
入って席に通されるなり、隣の中年男性がこっちを睨んできた。
それがジェフだと気付き、そういや住んでたんだっけと挨拶すると、彼はもうすぐ子供が産まれるんだと照れくさそうに。
ふたりして素直に祝福すると、ぽりぽりと頬を掻いて。
「ザフラもありがとな。ところでアンナは、上手くやってるか?」
彼女の方を見て、まるで娘を心配する父親の顔でそわそわと聞いた。
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