第2話  時間がない朝

「ぷはぁー‼ 生き返る‼」


 と、着物姿の女性は、顔色も良くなり、酔いが醒め始めた。


「いや~、危うく、死ぬところだった。真白、ありがとう!」


 まだ、アルコールが残っているのか、酔いが醒め始めて、体調不良から一気にテンションが高くなっている。


「はい、そういうのはいいですから、早く酔いを醒ましてくださいよ」


 少女は、女性の体を床に置いて立ち上がる。


「真白様、早く食べてしまわないと、学校に遅れてしまいますから、このままにしておきましょう」


「あ、うん……」


 二人は、女性を玄関に置き去りにしたまま、台所に戻り、残りの朝食を食べた。


「二人共~、私を置いていくなんて酷すぎるじゃない。ちょっとは、優しくしなさいよ」


 と女性が、台所に姿を現す。


「優しくするわけないですよ。今までどこで飲んでいたのですか? 真白様は忙しいのですから邪魔しないでくださいよ」


 少女は、食器を重ねて、流し台へと持っていく。


「なぜ、雪乃が、人間の学生服着ているのよ?」


「真白様の護衛ですよ。流石に一人でいられると、困りますからね」


 先程から雪乃と呼ばれている少女は、この家に住み付いている早乙女雪乃、一応、高校一年生である。


 綺麗な長い黒髪少女である。


 それに対し、雪乃と話している着物姿の女性は、珠代である。


 姿は雪乃よりも女性らしく、年齢二十代と言ってもおかしくはない。


「護衛って、あなたも物好きね。人間の学生を謳歌している時点で、人間の少女、そのものよ」


「いいじゃないですか。それのどこが悪いのですか? 朝から晩までお酒の飲んでいる人よりもマシだと思いますよ」


 雪乃は、少しため息が漏れながらも、言い返す。


「二人共、仲良く……な? ほら、俺、学校だからさ? 雪乃も珠代もこれくらいにして……」


 少年が困った表情をしながら、二人の間に入って仲裁する。


「真白様! この女、さっさと契約を切ったらどうですか⁉」


「え?」


「従者なのに、主の身を守ろうと思う意思が見当たりません! 即刻、切るべきです!」


 雪乃は感情的になって、少年に発言する。


「い、いや……。それをしたら、それこそ、大変な目になるだろ?」


 少年は、雪乃の意見に後始末の事を考える。


「大丈夫です。氷漬けにして、一生、世に出てこれないように封印します!」


 雪乃の目が、いつもよりも冷たく鋭くなっていた。


「待った、待った! 雪乃の意見は分かったからさ。ここはひとまず、保留って事で、な?」


 少年は、雪乃を宥める。


「そうそう、真白の言う通り。私を封印しようとするならば、あなたの力だけでは、足りないわよ」


 と、珠代は、少年の髪を触りながら言った。


 先程から、二人の言い合いに巻き込まれている少年は、この家の一人息子である久遠真白、十五歳。高校一年生である。


「この化け狐~!」


 と、雪乃は少し悔しそうな顔をする。


「ああああああ! もう、家を出ないと、学校に遅刻してしまう!」


 真白は、すぐに立ち上がって、食べ終えた食器をそのままにした状態で、自分の部屋に戻り、制服に着替えると、教科書などを入れたリュックを背負い、玄関に向かった。


「真白様、お待ちください! 私も一緒に出ます!」


 と、後ろから雪乃が追いかけてくる。


 二人は靴を履いて、外を出ようとする。


 真白は振り返り、珠代の方を見る。


「珠代、家の方は頼んだよ。留守番よろしく!」


「はいはい、いってらっしゃい。気を付けていくのよ」


「ああ!」


 先に真白は外に出る。


「珠代、真白様の命は、守ってくださいよ!」


「分かってるわよ。早く、あなたも行きなさい、冷血女」


 最後に余計な事を言う珠代。


 雪乃は舌を出して、べー、とした後、鍵を閉めた。

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