第2話 撲殺
その声を火きりに、早速
「
「別にそんなことはねえだろ。背後から頭蓋を殴り壊せば、運動神経も頭の良さも関係ねえ。頭蓋や脳は物理的に鍛えられねえからな」
「いえ、私が申し上げているのは、対象の背後をとることの難しさです。赤城さんはどうやって対象の背後を取るつもりで? 本殺害方法の議論では、前提として第三者に自分が犯人だとバレない点を考慮する必要がありますわよね。
撲殺を狙うのなら、彼を
「くそが! 実際にやってみないと分からねえだろうか! ――
赤城は悪態をついて、唯人に実演を求めた。
それを聞いた唯人は、
「赤城君から実演の提案がありました。実際に撲殺の殺害方法を演じてみて、実現可能性を見極める。撲殺の実演に賛成の人は挙手してください」
実演は過半数の賛成があって初めて行われる。過半数が反対した場合、演劇は行われない。
「実演をしないと赤城さんは納得してくれなさそうですから。私は賛成いたしますわ」
「僕も賛成です。撲殺でも案外うまくいくかもしれません」
「……賛成。ふしだらな奴は、脳がぐちゃぐちゃになって死ねばいいの」
どうやら他の三人も賛成のようだ。唯人は自身も賛成であることを告げる。
賛成五票、反対〇票となり、撲殺の実演が決定した。
「犯人役は赤城君で構いませんよね」
「ああ、俺がやる」
「
演劇とは言え、被害者役を進んでやりたがる人はおらず、いつもは司会進行をする人間が被害者役を務めることが多いのだが、
「私がやりますわ。演劇が終わった後に、やはり撲殺は無理だったと私が一番に
桃園が立候補する。
「けっ、殺しがいのある奴が立候補してくれたもんだ。
赤城が不敵な笑みを浮かべる。
視線が火花を散らす。
「ではお二方、これをどうぞ」
唯人は赤城に犯人用の、桃園に樽石用のメモリチップを差し出す。
「何度やっても、これだけは慣れねえんだよな」
「つべこべ言ってないで、さっさとインストールしなさいな」
赤城と桃園は口を開けると、
インストールは三秒ほどで完了した。
「さっさと始めよう」
赤城(犯人)がそう言って、唯人から段ボールでできた撲殺用の鉄パイプ(もはや鉄パイプではない)を受け取る。
「そうだな」
桃園(樽石)が赤城に続いて舞台に上がった。
脳にそれぞれの情報をインストールしたことで、赤城は平均的な男子中学生の、桃園は樽石の口調に変化していた。
照明は簡易的に舞台照明のみでスポットライトはなし。担当は
音響は観客席からアドリブで携帯を使ってBGMを流す。担当は
そして唯人が観客席から舞台の進行を見守る、という役割分担になった。
「準備できたの?」舞台袖にいる暗志木が、舞台に立つ赤城と桃園に尋ねる。
「「ああ」」
――舞台照明ON――
「話って何だ」
ミーン、ミーンと
体育館裏にやって来た樽石と犯人。部活終わりに人気のない場所に呼び出された樽石は、何の用事かと不思議がってはいるものの、不審に思っている様子はない。
「ほら、あそこの木の上にタオルが引っかかってるだろ。俺じゃあ手を伸ばしても届かなくてさ。バスケ部のエースでジャンプ力のある樽石なら届くだろうと思って」
上手い、と唯人は思った。これなら樽石に怪しまれずに背後をとることができる。
実際、樽石は、
「ああ、そんなことか。任せとけ」
犯人に背を見せながら木の根元へと近づき、軽く屈伸や伸脚などの準備運動を始める。
犯人は背中側の服の下に隠していた模造鉄パイプ(材質は段ボール)を取り出しながら、音を立てずに素早く樽石に近づいていく。
切迫感を演出するBGMが流れ出す。
犯人が鉄パイプを大きく振りかぶり、彼の後頭部に目掛けて振り下ろす。
ヒュンと空気を切り裂く音がして、樽石の頭蓋を叩き割る(という想定)かと思いきや、しかし樽石は空気を切り裂く音に敏感に反応して背後を瞬時に振り返ると、眼前に迫りくる鉄パイプを片手でがっしりと受け止めた。
「……反射神経すごすぎ」
唯人の口から思わずそんな言葉が漏れた。
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