殺人逃避劇

まにゅあ

第1話 プロローグ

「今から二年三組の樽石たるいし阿縫あほうの殺害方法について、議論を始めます。本日の進行役は僕、餅月もちづき唯人ゆいとが務めます」

 放課後の体育館に五人の中学生が集まっていた。

 テスト期間中ですべての部活動は休み。体育館には彼らのほかに誰もいなかった。彼らはと言えば、無断で体育館を使っていた。先生に見つかれば、まず間違いなくお叱りを受ける状況であった。しかし、ここにいる六人は誰一人としてそのことを気にした様子はなく、

「やっぱり撲殺ぼくさつじゃね。殴るときの快感がたまらんでしょ」

「あらあら、なんと野蛮でお下品なこと。赤城あかぎさんはそんなことだから停学処分なんてことになるのよ。私はね、毒殺がいいわ。直接手を下さずに鮮やかな死を演出する。この上なく美しいと思わない?」

「けっ、これだから女は! 毒殺なんて卑怯者のやることだ。まあ、お前にはぴったりだろうがな」

「今なんとおっしゃいまして。私が卑怯? 冗談はその顔だけにしてくださいな、赤城くん」

「なんだとコラァ!」

「赤城君、桃園ももぞのさん、それは議論というよりも口論になっています。ここはあくまでも対象を殺害するのに最もふさわしいと思う方法について話し、演じる場です。痴話ちわ喧嘩げんかなら他所よそでお願いします」

 唯人が落ち着いた声音でそう告げると、

「俺たちは付き合ってねえ」

「私たちは付き合っていませんわ」

 赤城と桃園の声がぴったりと重なる。

「……さて、では殺害対象のプロフィールから見ていきましょうか」

 唯人は手元の端末にある情報を順に読み上げていく。

「二年三組、出席番号二十三番、樽石阿縫。身長百七十三センチ。体重六十七キロ。家族構成は両親と二つ上の姉が一人。家族関係は円満。趣味はバスケ。バスケ部ではキャプテンを務めており、その実力は全国屈指の強豪校への推薦入学が確実視されるほど。また勉学でも学年で二番をキープするほどの優秀な成績を収めている」

「学年二番で優秀とは、片腹痛いですね」

 眼鏡をかけた男子がくいと人差し指で眼鏡のブリッジを押し上げる。

「これまで学年トップの成績を取り続けてきた固泉かたいずみ君に比べれば、誰しも優秀とは言い難くなってしまいます。あくまでも優秀というのは、平均的に見て、という意味だと捉えてください」

 唯人の言葉に納得したのか、固泉は頷く。

「話を戻します。彼が付き合っている彼女は三人いて――」

「死ね、女の敵。こいつは刃物で腹部を刺して、内臓をえぐり出しながら殺せばいいの」

「……えー、暗志木くらしきさん、気持ちは分かりますが、とりあえず最後まで聞いてください。――彼には付き合っている彼女が三人いて、しかし彼は上手く立ち回っているようで、三人の彼女たちは自分が唯一の彼女だと思っている。――プロフィール紹介は以上になります。質問はありますか」

 唯人が他の四人の顔を見回す。誰からも質問は出なかった。

「では議論を始めましょうか。もし気になることが出てきたら、随時いてください。それでは、お好きな方からどうぞ」

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