第58話過去4 ~王太子妃side~


 悔しい!

 家柄が良くて裕福なの女に言い負かされるなんて!

 『彼』は二歳年上の先輩で卒業後に婚礼をあげるという話だった。彼を今、この時に奪ってやれば伯爵令嬢はさぞかし悔しがるだろう。それを想像するだけで楽しいと思い、今まで以上に積極的に『彼』にアプローチした。『彼』も満更じゃなかった。上手くいっている。そう思っていた。


 なのに――


 『彼』は卒業後に伯爵令嬢と結婚した。




 

「どうして彼女と結婚するの!」


 卒業前に詰め寄った私は悪くない。

 あんなに熱烈に愛し合ったのよ?

 当然、伯爵令嬢よりも私を選ぶと思うじゃない!


「どうしてって、彼女は婚約者だよ? 結婚するのはだよ」


「じゃあ私は!?」


「サリーは僕の可愛い『子猫ちゃん』だよ。僕はもう卒業して会えないけどは紹介済みだから構わないだろう?」

 

「婚約者に恋情はないと言ったじゃない!」


「恋情はないよ。だけど『愛情』がないとは一言も言っていないだろう?」


「落ち着き払って面白みのない女だって言っていたじゃない!」


「そんなことは言っていないよ。『冷静沈着で真面目な女性』と言った筈だよ」


「同じでしょう!」


「全然、違うよ。言葉を歪曲するのは止めてくれ。それに、この結婚は両家の事業展開を拡大させる狙いもある。引いては国を豊かにする事だ。恋愛は“個人”でできるが、結婚は“家”が絡んでくる。それが貴族の婚姻だ」


 彼は幼い子供に言い聞かせるかのように言う。

 そんなこと位知っているわよ!

 知った上で私を選んで欲しいのよ!


「彼女は時期侯爵夫人に相応しい教養とマナーを身につけている。僕の自慢の婚約者だよ。先に言っておくが、彼女に僕達の関係を話した処でこの結婚はなくならない。もっとも、彼女は僕達の関係に目を瞑ってくれているから今更の話だけどね。お陰で、結婚後は尻に敷かれそうだ」


 ははは、と楽しそうに笑う彼に殺意が湧いてくる。

 

 あの伯爵令嬢は私と彼の関係を知っていた。

 だから見せつけるように彼とスキンシップを図っていたというのに嫉妬一つ見せなかった。そんな冷たい女が彼の妻になるなんて許せなかった。彼のためにも伯爵令嬢を排除しようと働きかけたのに、周囲の男達は誰一人として協力してくれなかった。それどころか邪魔されるケースもあった。

 ある時なんか、「未来の侯爵夫人を貶める行為は見逃せない」と面と向かって牽制された事もあった。言ってきたのは『彼』の家の分家の男子学生。失礼な男だった。「立場を弁えて行動しろ」なんて偉そうに!


 学園は『平等』なはずでしょう!




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