第35話過去4 ~公爵夫人(元婚約者)side~


 王家との婚約解消が正式に決まり、オルヴィス侯爵家は王家からの謝罪を受け入れました。


 私は永代辺境伯爵となり、領地は元王太子領を与えられたのです。


 この契約の見届け人の中に、何故か王太子殿下の側近達まで加わっていた事が些か腑に落ちません。彼らがいる意味があるのでしょうか? 疑問は直ぐに解消しました。



「オルヴィス侯爵令嬢、申し訳ありません」


 驚くことに彼らは私に頭を下げて謝罪してきました。


「王太子殿下を止める事もできず……オルヴィス侯爵令嬢に不快な思いをさせ続けてしまいました」


「たとえビット男爵令嬢が王太子妃になろうとも我らのはオルヴィス侯爵令嬢ございます」


「我々だけでなく高位貴族は常にオルヴィス侯爵令嬢を支持します」


 王太子殿下の側近達は全員が高位貴族。ただ家柄が良いだけの令息ではありません。親が要職に就いており、家の嫡男であり、本人達も才能ある人物です。王太子殿下を支える間柄、それ故に私も親しくしていました。


 なにも彼らが謝る事はありません。

 

 彼らが王太子殿下を諫めていた事は知っていましたから。


 

『マクシミリアン殿下! いい加減になさってください。ビット男爵令嬢とは距離を置いてくださいと申したはずです』


『殿下にはオルヴィス侯爵令嬢という婚約者がいる。婚約者のいる男性にむやみやたら近寄るのは淑女としてあるまじき行動だ』


『恋は自由だと? それが婚約者のいる男にいいよる理由にはならん』



 殿下だけではありません。男爵令嬢にも度々言い聞かせていました。聞き届けられなかったのは殿下と男爵令嬢です。



「我々も今日を持ちまして王太子殿下の側近の地位を返上いたします」


 思いがけない言葉を聞きました。


「主君が誤った道に行こうとしているのに止める事が出来なかった我々は側近に相応しくありません」


「なっ!?」


 王太子殿下は酷く驚かれていらっしゃいます。どうやら知らされていなかったようですね。隣にいる陛下や宰相閣下は涼しい表情のままです。


 

「何も責任を取って辞める必要はありません。貴男方が殿下達を諫めていた事は誰もが知っている事です」


「いつの日か殿下が過ちに気付いてくださると思っておりました。しかし結果はこの有様です。殿下にとって我々は小言を言う煩わしい存在でしかないようです。それに、殿下には『自分の気持ちを理解せず心無い言葉を吐く側近よりも、身分が低くとも心映えの良い者を傍に置きたい』と常々申しておりました。我々のように殿下の心を汲み取る事も出来ない者が傍にいれば殿下と未来の王太子妃の触りになりましょう」


「お、お前たち……」


 愕然としている殿下と引き換えに側近達は笑顔です。

 とうとう側近達も殿下に匙を投げたのでしょう。忠告や苦言も「小言を言う煩い奴ら」と態度にも言葉に出され続けられては無理もありません。




 


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