第8話過去5


 暫くの間、社交界は王太子と侯爵令嬢の婚約解消で話題に……はならなかった。

 こうなる事を予見していたかのように静かだった。


 逆に騒がしかったのは下位貴族達だ。


 流石に高位貴族が幅を利かせている社交界で侯爵令嬢の話題は出せない。

 なので、下位貴族のみの夜会やパーティー、茶会でセーラに対する攻撃的な噂がされていた。


『侯爵令嬢の癖に格下の男爵令嬢に負けた』


『優秀だと言う事は認めるよ。でも女があんまり優秀だと男は萎えるよ』


『可哀そうなセーラ様。あんなに美しいのに婚約者から捨てられるなんて』


『仕方ないわ。セーラ様よりもサリー嬢の方が魅力的ですもの』


『ああ、確かに。サリー嬢の豊満な肢体は垂涎の的だ』


『嫌だわ、お口の悪い事。クスクスッ』


『な~に。セーラ嬢が“婚約者を寝取られた令嬢”だってのは本当の事だろう。オルヴィス侯爵家だって否定できない真実さ』


 下世話な話題が流れた。

 子爵以下の貴族の子弟が侯爵令嬢を軽んじている。

 友人に招かれたパーティーで、サリーと一緒に出席した時に愕然とした。

 

 父上の言葉が脳裏をよぎった。


 彼らはまだ学生気分が抜けないでいる。

 分かっているのだろうか?

 学園を卒業した以上、彼らを守ってくれる者は誰もいない。

 家族?

 高位貴族から睨まれる位なら我が子など切り捨てる筈だ。


 訴えられた連中がどうなったか知らないのか?

 今も牢に入れられている者もいるのだぞ?

 セーラの事を面白おかしくバカにしてタダで済むと思っているのか?

 セーラやオルヴィス侯爵家が手を出さなくとも他の貴族が排除する場合もある。

 彼らはここまで愚かだったのか?

 危機感がないにも程がある。

 ここは学園内ではない。

 学園の理念を持ち出す事も出来ない。

 下位貴族である事を自覚してもっと慎重に行動しなければならないと言うのに……。


 まさか、私がいるからか?

 私が自分達を守ると思っているのか?

 そんなバカな!




 元々国内外で評判が良かったセーラだ。

 夜会や茶会にも悠然とした態度で参加していた。

 王国有数の名門貴族で、莫大な財産家である侯爵令嬢。父親は国の重鎮でもあるのだ。直ぐに婚約者が出来た。王国一の広大な土地を持つ公爵。豊かな土地は王国の貯蔵庫とも呼ばれる一方で、貿易も盛んに行われていて国一の金持ちでもある。

 名門同士の婚約。

 高位貴族は挙って祝福した。

 

 



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