一度目の人生にこんな濃いキャラいたっけ?

 大きな空間に並ぶ、椅子と机の群れ。更に女子たちが椅子と机に座ってるので、どこを見ても人だらけ。女子寮にある食堂には、寮にいる全ての生徒が集まってた。

 理由は簡単で、食堂がオリエンテーションの会場だから。学年ごとに座る場所が決まってるみたいで、一年生の誰も座ってない席にしれっと私は座った。

 魔法で姿を消して、気配も消して。メリジェーン様に見つからないように対策済み。

 ほとんどの生徒が椅子に座る中、一人だけ椅子から立ち上がったので目立っていた。


「さぁさぁ、私に注目してくれ」


 この人が寮長だと、すぐにわかった。わかったのはいいけど、1回目と違う気がする。一回目はもっと普通というか、印象に残ってない人だったんだけど。一度目の人生にこんな濃いキャラいたっけ?

 はっ! 私が目指すべき理想かもしれない。印象に残らないとか。でも印象に残らなさすぎて思い出せないっ!

 って、今は寮長だよ。一度見たら忘れられない、インパクトの強い人なんだけど。なんで男子の制服着てるんだろう。というかイケメン過ぎないかな、王子様よりイケメン度が高い気がする。男子生徒なわけないよね、ここは女子寮なんだし。


「私はイルル、女子寮の寮長をしている。趣味は男装だ。恋愛対象は女の子だよ」


 恋愛対象が女の子の男装寮長って、いろいろ情報量が多いんだけど。羊の群れにオオカミが混ざってるようなものなんじゃ。


「さて、寮則を教える前に。罰則を説明させてくれ。罰則は私の部屋に連れ込むだ。私と一夜を共にしたい子は、是非罰則を破ってくれ」


 パチッとウィンクをすると、黄色い悲鳴なのか歓声なのか。よく分からないけど、女子たちが色めいていた。私は例外、あとはメリジェーン様も。


「さて、それで寮則だけど。門限は十八時まで。外泊時は申請が必要。消灯時間は二十時、就寝が二十四時。この三つのどれかを破ったら、僕と一夜を過ごすことになるから気をつけてね」


 この寮長、欲望に忠実なだけなんじゃ。メリジェーン様以上に危険かもしれない。


「細かなルールに罰則は無いけど、なるべく守ってね?」


 罰則以外は一回目と変化なく。オリエンテーションは無事に終わった。はずだった。


「あっ、君少し待ってくれるかい」

「何ですか?」


 オリエンテーションが終わって、夕飯まで自由時間のはずが。私は寮長に声をかけられてた。私はモブ、私はモブだ。と、自分に言い聞かせて。寮長に向かい合う。そもそも気配を消してあるはずなのに。どうして寮長に見つかってるの。魔法の効果は切れてないのに。


「ここで話すと目立つし、外に行こうか」

「あの、私」

「来てくれるよね?」

「いや、その」

「他の子なら顔を真っ赤にして、目をうるませて一緒に来るのに。君はちょっと普通じゃないね」


 一番普通じゃない人に言われたくない言葉なんだけど。イケメンな顔が近づいてきて、耳に息が当たってこそばゆい。


「黒魔法の、シャドーベールにメイクか。学園内で魔法みむやみに使うのは禁止されてるんだよ?」

「な、な、な。なんでっ───」

「なんでか知りたかったら、外に行こうかお嬢さん?」


 今の私に、逃げるという選択肢はなく。イルルさんについて行くしか無かった。

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