ヒロインだった村娘

幽美 有明

偽聖女と言われ……

「これより偽聖女、アンナの公開処刑を行う」

「わぁぁぁぁ‼」

「やっちまえ!」

「早く見せてよ!」


 頭上から王子の声と、周囲全体から声が聞こえる。大きな広場には多くに民衆が押し寄せ、怒りと興奮に満ちた声をまき散らしていて。

 私の頭上では。

 私の愛した人が。

 私の処刑を告げていた。

 私は何処で間違ったんだろ。何を間違たんだろう。途中まで順調だったのに。途中まで彼は私の物だったのに。

 私の斜め後ろに立つ彼。王子である彼は、私の物だったのに。


「これより、アンナの罪状を述べる。第一に学園の不特定多数の貴族子息に、魅了の魔法を使用したこと。第二に国家転覆を狙った反逆罪である」


 十歳で白魔法に覚醒して、聖女になった。十二歳までは教会で過ごして。そして学園に入学して私の運命の王子に出会った。それから王子は私のことを愛してくれて、欲しいものがあったら何でも買ってくれた。

 それが突然に変わった。

 私の欲しいものは買ってくれなくなった。一緒に食事をすることも、出かけることもなくなった。

 ゲームのシナリオが変わるはずがないのに。

 本当は卒業式で断罪イベントをして、私は彼と結婚して。王妃になって幸せになるはずだったのに。断罪されたのは私だった。

 現実は王子の婚約者に悪逆非道な行いをしたのだと。しかも禁術である魅了の魔法を使ったのだとして。すぐに牢屋に入れられた。


「死刑囚、最後に言い残すことはあるか」


 アンナと優しく私の名前を呼んでくれた王子は、私の名前を呼んでくれない。

 どうして?

 私は聖女なのに。この国に必要な存在なのに。どうして処刑するの。魅了の魔法が禁術だなんて知らなかった。魅了の魔法があって初めてゲームは成立するんだもん。ゲームで普通に使ってたから使っただけなのに。どうして。


「喋らんか。では、これより死刑を執行する」


 愛国者による怒声と、野次馬による歓声と。音の壁が全方位から襲ってきて、私の身体をわずかに揺らした。民衆の声が、私を殺せと言う。おもちゃを前にした子供のように、目を輝かせて。早くしろと叫んでいる。

 手始めに観衆の目前で、長かった髪がバッサリと切られた。切られた髪の数本が、風に飛ばされて散っていく。太陽の光を反射して煌めいて空に溶ける。私から光が霧散していった。

 首を木枠で固定され。頭上には大きな刃があって、土台に縄で固定されていた。背中で縛られた腕は食い込んだ縄が痛い。王子はギロチン刑と言っていた。私は今日、ここで死ぬ。

 どうして?

 私は何も悪いことはしてないのに。

 ゲームのシナリオと同じく行動しただけなのに。

 神様が私に与えてくれた世界なのに。

 死んだ私をゲームの世界に転生させてくれるって。

 私がヒロインなのに。

 世界がヒロインを殺すの?

 私の世界なのに。

 嘘。

 嘘よ。嘘、嘘、嘘。ウソ!

 これは夢!

 夢なのよ、悪い夢!


「縄を切れ!」


 全部、なにもかも悪い夢なんだわ。目が覚めたら、彼はまた私に───


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