第43話 二人の時間も
『私も、勇気出してみる』
うちに届いたその文面を見て確信する。
「りこぴん、やる気みたいやな」
「いい返事あったのか?」
「うん、あっくんと向き合う気持ち、あるみたい。よっしゃ、ほんなら早速段取りするでー」
行くと決まったらさっさと帰る。
そんでこないうじうじした問題はパーッと片付けてしまうんや。
「じゃあ、もうこのまま帰るか?」
「別に荷造りするもんもないやろ。着替えたらシャーっと帰るで」
「はは、やる気だな。よーし、それじゃ準備するか。飯はどうする?」
「向こうついてからでもええんやない? 今日はオカンも仕事やから、駅ついて飯食ってぶらぶらしながら帰ろや」
「おっけー」
ちゅうわけで二度目の帰省。
前回の休みで帰ったから、電車の景色とかはなんや物足らん感じもしたけど。
地元の駅に着くと、夏休みとはいえ平日やからこの前と違って閑散としていて。
それが逆にテンションが上がる。
「なんか駅前がこない静かなん初めてやな」
「まあ、地元にいる時でも駅までくるのは休みばっかだったもんな」
「なあんか、ちょっと大人になった気分やわ」
「そうか? 大人はむしろ仕事してるだろ」
「確かに。あ、そいやりこぴんは夕方こっち着くみたいやからそれまで飯食ってぶらぶらせん?」
「じゃあさ、久しぶりに駅裏のラーメン行こうよ。そっちもよく行っただろ」
「ええなあ。じゃあ早速いくで」
その足でラーメン屋へ。
昔と変わらずひっそりと営業する小さな店の店内は暗いけど、明るく「いらっしゃい」と張り切る店長の声と調理をする音でどこかにぎやかな店内に感じる。
「ん? おお、二人とも帰ってたのかよ」
「あれ、彰?」
で、あっくんがカウンターで一人、ラーメンを食べていた。
「なんだよ優。よく来てただろここ。今でも時々来るんだよ」
「そ、そっか。いや、家で一息ついたら連絡しようと思ってたんだ」
「ふーん。で、このあとりこと会うの?」
「あ、いや、それは」
「はは、どうせ会うんだろ? 後ろの京香ちゃん見てたらよくわかるよ」
ユウが振り返ると、うちは実際後ろであたふたしていた。
実にわかりやすい。
「京香、バレバレだって」
「え、そ、そうなん? ええと、どないしよ」
「二人とも、気を遣ってくれてありがとな。とりあえず座れよ」
「あ、ああ」
で、カウンターに並んで座る。
そのあとラーメンを注文して待っている間、あっくんはユウに話を続ける。
「優、俺もちゃんとりこに会うよ」
「ほんとか? それだとあの子も喜ぶと思うよ」
「どうだろうな。でも、ちゃんとするよ」
あっくんも覚悟を決めたみたい。
なんやはらはらする。
「よし、ごちそうさん。俺、先に帰るからまた連絡くれよ」
「あ、ああ」
「あっくん、またあとで」
「うん、京香ちゃんもまた」
先にあっくんは店を出て行った。
で、ようやく二人っきりになった。
「なんや地元やと落ち着かんなあ」
「まあ、彰とは行く店も一緒だったからな。とりあえず食べたら篠宮さんに連絡してみよう」
「せやな。なんか地元やったらイチャイチャでけへんな」
「帰ったらできるだろ。それに、地元をこうやって京香と歩けるのも楽しいよ」
「ユウ……うん、うちも」
こんあとはあっくんらのことで多分ゆっくりでけへん。
せやから今だけ。
そう思ってラーメンをさっさと食べた後、ちょっとユウにもたれかかって甘えてみた。
食べにくそうにしとったけど、ユウも嬉しそうにしてくれて。
カウンターでちょっといちゃいちゃしてから、うちらは店を後にした。
◇
「ほないこか」
りこぴんに連絡したらすぐ連絡が来て。
三十分後には駅に着くってことで駅前で待ち合わせ。
コーヒーを飲みながら待ってると、改札口からぞろぞろと人が出てきた中にりこぴんの姿が見えた。
「あ、りこぴん。おつー」
「橘さんお疲れ。黒木君も」
「お疲れ様。さっき彰に会ったよ」
「まああいつはこっち地元だもんね。で、一緒じゃないんだ」
「篠宮さんと会う気はあるみたいだから。あいつも色々心の準備があるんだろ」
「ふーん」
りこぴんも、つまらなさそうにしながらもどこかそわそわしとる。
落ち着かんのやろな。わかるでその気持ち。
「りこぴん、あっくん来るまでの間うちらとカラオケでも行こや」
「え、今から? まあ、別に実家に急いで帰らないといけないとかないからいいけど」
「実家こっちなん?」
「中学は親の転勤であっち引っ越したけど、また親が転勤でこっち戻ってきててね。だから今は一人暮らしよ。言わなかった?」
「そうやったんや。なんや一人暮らしなら今度みんなで鍋パしよや」
「あはは、いいねそれ。それじゃとりあえず移動しましょ」
駅前は日差しも強く蒸し暑い。
立ち話もなんだからと、少し歩いてこの街唯一のカラオケボックスへ向かう。
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