第34話 地元やった
♥
「最低なこと?」
あっくんの言葉にまず声が出たのはうちやった。
で、あっくんはそんまま続ける。
「ああ。小学生なんてさ、両想いでも付き合ったりって感覚じゃない、だろ? 俺とりこはまあ、そんな感じだったんだ」
「へー、淡い初恋やん。で?」
「まあ焦らないでよ。で、中学にあがった時にあいつは引っ越してさ。なんか遠距離恋愛的な感じになったんだけど」
「えー、なんやめっちゃドキドキやん。で、で?」
「こら京香」
「あ、ごめんユウ……」
「はは、いいっていいって。でも、中学生に遠恋なんてそう続かないだろ。ただ好きな気持ちも本当だから。転校して向こうに行くって話もしたんだ。だけどうちの親は許さなくて。向こうもそれは難しいって」
「ほな結局そんまま会えずやったんか?」
「いや、結局俺がバカだった。一緒にどっか逃げようとか、そういう話をあいつにしたんだ。今考えたら中学生の痛いやつだけどな。でも、りこは本気にした。いつ逃げようかとか、二人でどんな仕事して暮らそうかとか、それくらいあいつは俺と一緒にいたかったんだ。なのに俺は」
と、言いかけて言葉が止まった。
アホなうちでも、なんとなく話の内容は見えた。
つまり、そういうことや。
「ほいで約束した場所にあっくんは行かへんかったんやな?」
「……ああ、その通りだよ。あいつの本気度に負けて俺も家を出ようと思ったんだけど、親にそのことがバレてさ。で、携帯を取り上げられるわ外出禁止にされるわで、結局あいつとの約束は無視した結果になった」
「そっか。でも、そんあともりこぴんと連絡はとれてるんやろ?」
「死ぬほど謝ったし、一回そのあとで会ったりもした。でも、その時はもう、りこは別人だったよ。人間全部を信じてないような、そんな目というか。元々明るいやつだったからそういうとこわかりにくいけど、そっからは俺が連絡したらかえってくるだけで、しかもいっつも男はクソだとか、また男を騙してやったとか、俺が嫌がるようなことばっか言ってきて、な。なんか、ずっとこのままなのかなって思うと辛くて」
額に手を当てて、「ふう」と息を吐くあっくんは本当に辛そうやった。
ずっと、ユウは無言。
よほど、こんな様子のあっくんに戸惑ってるんやろう。
でもまあ、恋の悩みって誰でもこうなんねんな。
岩みたいな男が出てきても、鉄パイプ振り回されても突っ込んでいきよったうちかて、ユウの気持ちを知るんだけは死ぬほど怖かった。
そんなもんや。
あっくんが頭ええとかそんなん関係あらへん。
「あっくん、ほいたら一回りこぴんと会うて話してみん?」
「りこと? いや、でも会ったところであいつが許してくれるとは思えんし」
「それこそ聞いてみなわからんやん。ま、連休明けに学校でちょいと探りいれたるさかい、そん反応見て、うまくこっちに連れてくるから」
「……じゃあ、頼むよ。別にもう一回付き合いたいとか、そういうことを言いたいわけじゃないけど、ちゃんとあいつが人を信じられるようにはなってほしいから」
「ほな決まりな。あっくんはあっくんで、それまでに何話すかよーに考えとき。わーった?」
「はは、京香ちゃんにはかなわないな。うん、わかったよ」
というわけで、連休明けに学校でやることができた。
りこぴんが今、あっくんのことをどう思とるか探る。
ほいでこっちに連れてくる。
そんなこんなで話がぐちゃぐちゃになったまま、「そろそろ行かないとだから」と言って、あっくんは先に帰ってしまった。
で。
「ど、どないしよ? な、なにしたらええん?」
「落ち着けよ京香、自分で言い出したんだろ」
「せ、せやかてほっとけんやんかあ」
「素直に篠宮さんに話すしかないだろ」
「で、でもそれであっくんとりこぴんの仲が悪うなったら?」
「それはその時だろ」
「そ、そない責任重いことできんてー」
ユウに泣きついていた。
かっこええことは言うたもののノープラン。
もしうちのせいで地雷踏んで爆発させてもうたらって思うと……。
「大丈夫だって。すでにうまくいってないし、どうすることもできないからああやって言ってきたんだろ? ダメ元でやるしかないよ」
「そ、そない言うても……駆け落ちしようってくらい好き好きやった二人がなんでこない仲違いせなあかんねん。しかも親のせいなんかで」
「子供ってそういうもんだよ。親の理解がある家ばっかじゃない。うちはたまたまラッキーだったってだけだ」
「うーん。でも好きな人とただ一緒におりたいんは当たり前のことやけどなあ」
「お金とか、将来とか、そういういろんな問題もあるんだよ。好きな人と好きなまま結婚出来たら、それは多分相当ラッキーで幸せなことなんだと思うよ」
ユウはいつも冷静や。
大人みたいなことをサラッというし、子供のわがままみたいなことしか言わんうちをそうやって納得させる。
でも、今回ばっかは譲れん。
「あかん、それでもあっくんはラッキーで幸せになってもらわなあかんねん」
「……俺だって、そう思うよ。それに、篠宮さんは理由はどうあれちょっと変わってきてるし。今なら彰の話にも耳を傾けてくれるんじゃないかって、思ってる」
「ユウもわかってくれる? ほな……助けて」
「はいはい、言うと思ったよ。一緒に頑張ろう」
「うん」
ポンポンと頭を叩かれてうちは猫みたいにユウにじゃれる。
そない姿を顔見知りの店員がみとって。
レジん時に「随分丸くなったねえ京香ちゃん」といじられて。
帰る時は燃えそうやった。
あかん、地元なん忘れとった……。
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