54 何でこのタイミングで……
「いやです」
「え……?」
ラナの言葉に、テオは目を見開く。
お膳立てしたつもりのフェリルでさえ、驚いた表情を浮かべている。
「どういうことラナ? ちょ、落ち着いて?」
「落ち着いていますよ。ただ、もう何かをしてもらうだけは嫌なんです。だから……わたしがテオを迎えに来ます」
テオは言葉を失っていた。何も言えなかった。
が、すぐにここにラナが戻って、他の人間の目に触れることを想像してすぐに否定する。
「いや、やっぱりだめだ。俺が森に迎えにいく」
「狭量だわ……やっぱりテオは狭量だわ」
「前にも言っていましたが、きょうりょうって何ですか?」
「独り占めしたいってことだ。愛されてるな」
鼻を鳴らしながら口を挟む妖精王の言葉に、ラナは目を丸くしてテオを見上げる。
「あいされてる……? そうなのですか?」
「え、あ、いや……あぁ、もうそうだよ! 何でこのタイミングで言わなきゃなんだよ!」
耳まで真っ赤にしたテオが声を上げる。
妖精王もフェリルも面白がって笑っていた。
「改めてちゃんと言うから! 今度会った時、ちゃんと言うから!」
テオは開き直り、大きな声でそんなことを叫ぶ。
ラナはよくわからないと言った様子で小さく頷いていた。
「あ、一つだけお願いが……」
言いにくそうに言葉を紡ぐラナに、テオは「何だ?」と先ほどまでとは打って変わって優しい声で聞く。
「テオが着ていたマントをいただけませんか? 貸してくれるだけでいいので」
「マント? 別にいいけど」
部屋の片隅に脱ぎ捨てていたマントを持ってくると、「こんなのどうするんだ? ラナの丈に合わないだろ」と言いながらラナに手渡す。
「眠るときに、テオがいないと寝られなくて……」
「え……俺? それってもふもふじゃなくて?」
ホワイトタイガーだったときに、ラナはテオのもふもふを好んでいた。寝言でも口ずさんでしまうほど。
であれば、テオのマントでは代わりにならないのでは、と首を傾げる。マントはテオが森からここまでやってくる際に身につけていたもの。随時温めないと、自動では温まらないものだ。
「もふもふは最高ですが、でもそれだけじゃなくて、何というか……匂い? が落ち着くと言うのでしょうか?」
ラナは答えを探すように受け取ったマントを顔の近くへと持っていく。
その一連の動作を見ていたテオは、マントを手渡して空きができた手で顔を押さえていた。隠れていない耳は、やはり真っ赤に色づいている。
「もうやだ。この人、ほんとやだ。え、これ今抱きしめていいやつだよね?」
「お触り禁止だ」
そう言って妖精王がラナの方に腕を回し、テオから遠ざける。どこまでもテオで遊ぶつもりらしい。
しばしではあるが、別れの挨拶だったはずなのに、最後までてんやわんやとなっていたとか。
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