27 旅立つ前に

 森を出て、王都までの道路のりをテオは歩いていた。フェリルは自分で移動することなく、テオの肩に乗っている。

 森を出る前にザックのところにも寄っていた。

 幸いにもザックのところに被害は及んでいなかったが、森の異変には気づいていたようで、フェリルの姿を確認すると「何があったんだ?!」と飛んできた。

 見知らぬ男性をそばに従えていることにも戸惑いを隠せないようだったが、テオが自ら名乗りを上げると、目を見開いたまま、そうかと呟き、ただ頷いていた。それ以上の追及はしなかった。


 立ち話もなんだからと、ザックは自宅に招待してくれたが、これはフェリルが断りを入れる。急いでいる旨を伝え、ザックには森で起きた大まかなことだけを話した。説明はテオがその任を担う。ザックは静かにテオの言葉に耳を傾けていた。

 これから王都へ向かうのだと告げると、そこで初めてザックは口を挟んだ。そんな軽装備で行くのか、と。

 テオたちが頷くと、ここで待っていろ、と二人に背を向けた。

 ザックが自宅へと向かう背中を見つめながら、テオもフェリルも首を捻っていた。


 しばらくして戻ってきたザックは、小さな袋を手にしていた。小さな、と言ってもそれはザックが持っているからそう見えるだけで、そこそこな大きさのあるものだ。

 ザックはそれをテオの前に差し出すと、「これを持っていけ」と口にした。


「これは?」


「食料だよ。そのまま食べられるもので、多少日持ちのするものを見繕ってある」


 ザックは片方だけ口角を上げると「その姿なら食べられるんだろ?」と笑った。

 王都に向かうことだけを考えていたテオは、その間に必要な食料等のことなど失念していた。ザックの起点と気配りに頭が上がらない。


「もちろん、フェリルの好物も入ってるからな」


「さすがはザックね」


 フェリルが軽口を叩く中、テオは深々とザックに頭を下げた。

 ザックはただいつものように大きな口を開けて笑うだけ。

 騙していたことに対する気まずさが、優しさに触れたことで再燃する。テオは顔を上げられずにいた。


「なぁ、テオ」


 いつも以上に穏やかな声色が響く。テオはいまだに頭を下げたまま。

 困ったような笑い声が頭上から落とされ、そのままザックの声が続いた。



「テオ、俺はな、嬉しいんだよ。テオと直接話ができる日が来るとは思わなんだで、今まさに夢見心地なんだわ。だからな、まぁ、何というか……帰ってこいよ? ゆっくり話もしたいしさ」


 肩を叩くザックの手に、微かに振動が伝わる。ザックはそのまま肩に手を置き、満面の笑みを浮かべた。

 しんみりとした空気を一変させようと気を遣ったのか、「その時は上質なお酒を用意してくれるそうよ。テオが」と、フェリルが間を切りもった。

 フェリルの思惑通り空気が変わり、ザックの笑い声に続いて、テオも小さく笑みをこぼした。

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