〜少女は唇を噛む〜
カオさん
完璧主義
テストで100点を取った。それを嬉々とした気持ちで、褒めてもらう気で母へ見せると母は言った。
「宿題は?」
不機嫌には見えない。そして嬉しそうにも見えない。
手に取ったテスト用紙をその辺に置いて、我が娘に宿題はあるかと聞いた。
「宿題はあるの?どの教科?貴方数学苦手なんだからきちんと勉強なさい。全ての教科100点が基本....いいですね?」
少女はわかっていた....
(きっと母は....私を褒めてはくれない....)
今まで100点を取る事がなく....満点を取りなさいと毎度の様に母から言われ続け....そしてやっとこさ100点を取ることが出来たので、これはもしや良くやったと褒めてくれるのでは?と思い見せたが....母が少女に言った祝福の言葉であるはずの言葉は............。
少女は俯いたまま母の言葉に「はい」とだけ言うと、とぼとぼと自室へと戻ってゆく.....。
机のランプを付け椅子に座ると、ため息をつきながら机に肘を着く。
悔しいというか.....やるせないというか.....そんな気持ちが頭の中で駆け巡っていると、次第に涙が出そうになる.....やはりきっと悔しい気持ちだったのだろう.....。
少女は様々な思いが頭の中で駆け巡る中思った
(愛されたいから勉強をする私は.....どうすれば愛してもらえるの....?どこに方法が載っているの....?)
少女の全ては母からの愛情。愛情を追い求める様はまさに社会のようだ。
自身がなし得た事の対価として頂く給与という名の愛。
会社のノルマ達成して貰える報酬のラインが80点以上と寛容であるとすると、少女の家では100点と完璧だ。
毎日毎日勉強をしても100点など容易に取れるものでもない。
少女は昔から勉強が嫌で仕方が無かった。小学生の頃は勉強を推し進める親が嫌で家を出たことも。
中学になっても友達と遊ぶ時間を勉強に費やされ、全くと言っていい程人と遊べなかったし人とも話せなかった。
せっかく取った100点のテスト用紙も...見ていると逆に悔しく思えてくる.....今回こそ取るぞ!と思って取った数学での100点....結局はなんも.....貰えなかった。
テスト用紙はビリビリに破いてゴミ箱に捨てた。
苦手の科目で取った満点くらい.....褒めてくれても.......出そうになった涙を必死に押えた。下唇を血が出るまで噛んで耐えた。
少女はティッシュを二枚取り、唇をティッシュで拭き終えると何事も無かったかのようにペンを持ち、勉強を始める。
しかし不思議だ.....いつも以上にペンを動かすスピードが落ちている。それに紙が濡れていて書けない.....。
自身の頬に手をやると、濡れていた。涙で頬が濡れていたんだ。
無意識か....?無意識で少女は我慢していたはずの涙を流していた....。
泣いていることに気づくと止まらない.....決壊したダムのように....空から降る雨のように....涙が次から次へとポロポロ出てくる────
「うぅ....うぐぅ....ひぐっ....はぁ....うぅ....」
泣いちゃダメだと必死に我慢しようとしても、今まで我慢していた悔しさと悲しさがどうしようもなく溢れ出てきて止まらない──
「ひぐっ....うわぁぁぁん......うっ...うぅ.....」
努力をしてるのに.....今回が初めてでは無い.....満点を取ったのは今回が初めてでは無い....しかし苦手科目ということにおいては初めてだった!
テスト用紙を先生から受け取った時の心の興奮は.....!
私の母はきっと喜んでくれるに違いないと!そう心に思っていたあの時の思いは.....!
紛れも無い喜びだった!
母から褒めて貰えるかもしれないという期待と喜びだった!
満点を取ることはちっぽけなことでも、理由や目標次第では石油を当てるほどの価値がある。少なくとも少女にはそれがあった。
母から褒めてもらう.....そんな....満点以上にちっぽけな事を....少女は本気で求めていた....。
それは....少女にとっての生き甲斐であり全てなのだから.....。
転んでも立ち上がる者こそ成長できる。
挫折を知らない....失敗の経験が乏しい人間は成長しない。苦しい経験を味わうことで人は成長するのだ。
今まさに....丁度...少女も苦しい時なのかもしれない....
少女の流した悔し涙も....いずれ嬉し涙に変わることだろう.......。
〜少女は唇を噛む〜 カオさん @KAO_SAN
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