第3話 幸せのツボ

 あ、こりゃ失礼しました。

 へいへい、分かっております。ここは貴方様の家で私はただの侵入者。

 はい、その通りです。

 あ、お待ちを。お待ちを。私決して怪しい者じゃございません。いや、確かに怪しい者ではあるけど怪しい者じゃありません。

 ほら、取り合えずこれを見てください。王国発行の侵入許可証。つまり私に限ってはどこの家にも出入り自由というわけで。警察なんか呼んだら逆に貴方様が逮捕されるとまあそういうわけでして。

 ああ、はい。

 へ?

 私?

 ああ、申し遅れました。私こういう者です。壺貨幣補充師。これでもれっきとした国家資格なんですよ。

 ああ、分からない。ではちょっとばかりここで説明いたしましょう。

 ほら、勇者っているじゃないですか。無償で魔王を倒してくれるあの有難い御仁。それでまあいかに勇者と云えど長い冒険の間にはモチベーションが下がってしまい、やる気をなくしてしまうものなんです。

 そこであたしの出番です。勇者が手を入れそうな場所に、ほら、あなたの家のタンスの中の壺みたいな場所にですね。そっとコインを入れておくんです。するとほら、勇者が手を入れたときにコインを見つけて少し気分が良くなる。ちょっとした幸運があれば辛い冒険を続ける気にもなるじゃないですか。

 あなたにも覚えがあるでしょ。朝飲んだお茶に茶柱が立っていたら、今日はどんな良いことがあるのかと一日気分が良い。それと同じです。

 あたしね。どういうわけか勇者が漁りそうな場所が分かるんです。勇者との陰ながらの付き合いも長いので今じゃあ百発百中ですわ。

 まあ、そういうわけで、ここのツボにコインを入れときますわ。あ、言っておきますが貴方様がコインに手を出したら法に触れますからね。まさかとは思いますが一応念のため。

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