ドラクエおつまみ

のいげる

第1話 世界の半分

「ワシの軍門に下るならば、勇者よ。世界の半分をやろう」

 魔王のその言葉に勇者はうかと頷いてしまった。

「よろしい。では世界の半分をお前にやろう」

 魔法の制約の下での誓約。それは強烈に働き、勇者には闇の世界が与えられた。そして勇者が代表する人類もまたそれに従うこととなった。


 お日さまの下で魔王と魔物たちは、のびのびと人生を謳歌した。いや、謳歌するはずだった。


「魔王様。ご相談があります」魔王城の大広間で配下の魔物が声をかけてきた。

「おう。大臣か。どうした。顔色が悪いぞ」

「それです。それ、魔王様。太陽がまぶしすぎるのです。あの熱いお日さまの下を歩いていると、物凄く疲れるのです」

「お前もか。実はワシもじゃ」

「魔王様。やはり魔物がお日さまの下で生きるのは無理があったのではないでしょうか」

「ワシもそう思う。しかしまさかこんなことになるとは。だがいまさら取り決めを無しにするわけにもいかん」

「しかし、魔王様。普通の魔物でも大変ですが、吸血鬼たちに至っては明るい昼間には外出すら一苦労です。灰になっては復活を繰り返している有様です。これは何とかしないと魔物たちが滅びてしまいます」

「ううむ。もう少し考えさせてくれ」


 日が落ちる。世界は夜を迎える。

 魔物たちは家に閉じ困って過ごしていたが、それでもどうしても夜中に出かける用事はできる。だが外に出ると闇の中で襲われた。

 人間たちに。

 暗闇の中で赤い目だけをギラギラと輝かせて、群れとなった青白い幽鬼のような人間たちは魔物を襲った。

 鶏蛇コカトリスは捕まって羽をむしられ焼き鳥にされた。ミノタウロスはA5クラスの霜降り肉となり、闇で流通させられた。ゴーストは人間に逆に脅かされて家に逃げ帰る始末だった。

 魔物が耕した畑にようやく実った作物は夜の間にすべて人間に食い荒らされた。

 こうなるともはや昼の世界での生活は無理であった。


「何とかしてください、魔王様」魔物たちが合唱した。

「ええい。わかった。わかった。勇者と交渉してみる」


 疲れはて、よろよろと覚束ない足取りで近づいて来る魔王を見ながら、闇の玉座に座ったままで勇者は尋ねた。

「おお、魔王よ。我が軍門に下るというならば世界の半分をお前にやろう」

「わかった。勇者よ。お前の要求はすべて飲む。だから、世界の半分である闇を返してくれ」



 そして現在、人間たちはお日さまの下で畑を耕し、魔物たちは闇の中で暗躍しているのである。

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