第27話 お休みは大事、そしてまた進む
「新しい『竜撃』の誕生に――! 乾杯!」
ここ、
皆が口々に、『竜撃』を祝福している。
この金ぴか鎧で身を固めた若者がここに現れたのは、10年ほど前のことだったなあと、リノセルフは思い起こしていた。
まったく、「人間」という種族は不思議な生き物だとリノセルフは常々思わずにはいられない。
彼らはなんというか、「生き急いでいる」ようにも見える。
が、目的に向かって真っすぐに突き進んでいく彼らの行動力は、こちらの世界の人類にはあまり見られない特色であることは確かだ。
それに、そうやって生きている彼らはとてもまぶしく輝いている。
だから自然と周りの者たちに活力を与える。アイツに負けるな、アイツに追い付けと。
この10年の間にも、これまで全く探索されていなかったエリアやダンジョンなどの開拓が進んでいる。
彼ら「人間」が来るまでのこのバウガルドはただ毎日がゆっくりと過ぎ去っていくようなとても退屈な日々を送っていた。冒険者はただ狩りをするだけの毎日。農夫はただ畑を耕し、商人はただ物を売る。
ただただそれだけの毎日。
しかし彼らは違った。
「希望」に胸を膨らませ、「目的」を見出し、「方法」を模索し、「目標」をたて、それを「達成」しようと日々前に進んでいく――。
この若者、キョウヤもそうだった。
彼は『竜撃』になることを「目標」とし、この10年それに向かって進み続けた。
そしてついに、成し遂げたのだ。
数千年前の伝説の再来となった。
『竜撃』――。
四聖竜の一柱でも討伐することができれば与えられるこの二つ名は、それを目指さなかったものには絶対に与えられることがないものである。
数千年そういう者は現れなかった。そうしてそれは、いわばおとぎ話のように「伝説」として風化していったのだ。
しかし、この若者はやり遂げた。
「ありがとう、みんな。みんなの祝福は正直とてもうれしい。でも、俺は今は充実感でいっぱいだけど、すこし寂しくもある。たぶん、新しい目標を見つけるまではそうなんだと思う。だから、新しい目標を見つけるまで、少しお休みをもらうことにするよ――」
キョウヤはそう言った。
周囲のものたちはすこし静まった。
「なんだよ『竜撃』。らしくねえぞ!?」
「そうだ!」
「また何かきっとあるさ!」
いくつかの声がキョウヤに向かって掛けられたが、それ以降は続かなかった。
みんなわかっている。
『彼は走りすぎたのだ』と。
やはり、戦士に休息は必要だ。それはいかに「人間」という種族であってもそうなのだろう。
「でも――」
キョウヤは声を絞り出した。
「必ずここへ戻ってくるよ。この世界は俺の世界とは全く違う。とてもアツい世界だ。そして俺はここに住むみんなのことが大好きだ。だから、必ず帰ってくるよ。だから少しだけ、ほんの少しの間だけ、俺を休ませてくれ――」
そう言って彼は
「キョウヤさん、すこし元気がなかったような気がするんですけど、またもどってきますかね?」
酒場の給仕、フィーリャがリノセルフへ囁いた。
「まあ、大丈夫だろう。でも今は少し、気持ちの整理をつける必要があるんじゃないかな。彼にもいろいろとあるんだろうさ」
「いろいろ? ですか――」
「ああ、いろいろさ。僕たち酒場のものはここに来る人達のここにいるときの顔しか見ないけど、その顔を見れば本当にみんないろいろあるだろうことが想像できる。それは、『竜撃』もそうなのだろうさ。彼は特別だけど特別じゃない、彼もまたただの人間だよ」
「ん~。よくわかんないですけど、私はまた会いたいです」
「ははは、そうさ。みんなそう思ってるよ。だから彼は絶対戻ってくるよ。だって彼は言ってたろう?」
――――俺はみんなのことが大好きだ。
って。
仙谷京也は、ボードゲームカフェ「ダイシイ」を出た。
そして、今出てきたビルの2階を見上げる。
ここに来るようになって1年が過ぎようとしている。それも今日で一旦お休みだ。
つぎの「目標」はもう決めている。
それはこちらの世界でしかできないことだ。
(ナワキさん、俺、やりましたよ。絶対「無理ゲー」ってみんな言ってたけど、それでもあきらめずにやり遂げましたよ――)
あの日、ナワキさんと一緒に戦った「ドラゴン」も、今日俺が倒した「青龍」も、周りの人たちはあきらめたのだ。だから、立ち向かわなかった。
立ち向かわなければ
(ナワキさん、俺、やっと立ち向かえそうな気がしてきました――)
京也の次の目標、それは、7年間開けることができなかったあの「箱」、ナワキさんの『ゲーム』をソロでクリアすることだ。
そのゲームの名前は、
『バウガルド――竜の住む世界』――。
――――――――
「あ、ところでリノさん、
「ふふふ、彼は言ってたよ、言い伝えって本当のこともあるんですねって」
「どういうことです?」
「なんでも彼の世界には、『竜の
「はあ――」
「そういうことさ、それが本当だったんだって、彼は言ってたよ」
――キョウヤの
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