竜撃キョウヤと呼ばれるまでには
第22話 ボドゲカフェ・デビューは緊張する
東京都T区羽原町――
ここにボードゲームカフェ「ダイシイ」が出店したのは6年ほど前だった。
京也はこのお店の常連客だ。もともとは大阪本町店でこの店をよく利用していたが、仕事の関係で今は東京に住んでいる。
東京に越してきてからはこの店がホームグラウンドだ。
ボドゲカフェブームはもう10年以上も前のことだ。
当時はばんばん出店攻勢があったが、世界の状況がこれに急ブレーキをかけた。
新型ウィルスの大規模蔓延が世界中を襲ったのだ。
2019年にそれは発生し、2023年まで4年もの間世界はこの新型ウィルスの感染予防と戦う日々を送った。
当時大学生だった京也は毎日を部屋で過ごし、大学生であるにもかかわらず大学生活を送っているとは到底言えないような状況だった。
授業はオンライン、定期テストはすべてレポート提出へと置き換わった。
当然ながら、サークル活動も部活動も、そして、アルバイトすらもほとんどできないまま時間が溶けて行った。
そんな時だ。
学生マンションの集合ポストに一枚のチラシが投げ込まれていた。
『ボードゲームカフェ「ダイシイ」オープン! おひとりさまでもOK です! ぜひ集まった人たちでゲームを楽しみましょう! 見学自由です、是非一度ご来店ください!』
大阪本町商店街、薬のイノキヤとなりの
当時、京也は大阪の大学生だったのでそのあたりに学生生協関連施設の学生マンションに住んでいたのだ。
本町商店街は目と鼻の先だ。歩いて5分で行けるところだし、たまに外食するときによく利用している場所でもある。その商店街の「コク
(薬のイノキヤのとなりかぁ――。そんなところにこんな店ができたんだ――)
その時はそんなものだった。
それから数日後、久しぶりのアルバイト出勤で帰りが遅くなったため、かえって自炊すると遅くなるからいつもの「ケンケン堂」でラーメンでも食べようと本町商店街へ向かった。
ラーメンはいつも通りの味でそこそこうまいが、めちゃくちゃおいしいというわけでもない。
この「めちゃくちゃ」というのは関西特有の言い回しなのだろうか、「とてもとても」というのが標準語なのか、なんとも怪しい。もうそんなこともわからないぐらい大阪にどっぷりつかっている。
そうして、ラーメンでお腹を膨らました後、帰路につこうと商店街を歩いている時だった。
「めっちゃおもろかったなぁ!」
「おう、あんなにボードゲームって面白いってしらんかったわぁ」
「またこようぜ! こんどはマリたちもつれてこようや!」
学生風の男の子3人組がビルから飛び出てくるのに鉢合わせた。
(ボードゲーム?)
京也はどこかで聞いたフレーズを思いだしてふとそのビルの方へ視線を向けた。
『ボードゲームカフェ「ダイシイ」 見学歓迎! お気軽にどうぞ!』
そんな文字が目に入る。
ゲーム=さいころと言わんばかりのサイコロをモチーフにしたロゴマークがいかにもという感じを
先ほどの3人組はそのまま興奮気味に会話しながら商店街の入り口方面、地下鉄の駅の方へと歩いて行った。
新型ウィルスの影響もあって、商店街の人通りはそれほど多くないので、余計にその声が鮮明に聞こえたのかもしれない。
ああ、そういえばこの間のあのチラシの店かぁ。おひとり様でも歓迎って書いてあったよな? でも一人でゲームってできないだろう?
まあ、いいか――。
帰って寝るにはまだ早いし、どうせ明日もバイトないし、授業はオンラインだからあとで再生すればいいしな――。ちょっと寄ってみるか――。
しかし、この入りにくさはなんなんだろうな。何と言うか敷居が高い? みたいな。 知らない世界へ飛び込むというのは得てしてこういうものかもしれない。などと思いつつ、意を決して階段を上がる。
階段の途中あたりに差し掛かった時だった。
「ありがとうございました~、またおいでください~」
と、明るい女の人の声が響いた。
そのすぐ
「んじゃまたきます~」
という男の人の声がした。
すぐ直後に一人の中年の男性が大きなバッグを抱えて扉から出てきた。
その男性は私に気が付いて、
「あ、ああごめんね。待たせちゃったかな。どうぞ」
そう言って狭い踊り場の片隅へよけながら、扉をもって待ってくれた。
京也はつい、
「あ、いえ、ありがとうございます――」
と答えた。
扉から入ると、中には棚にぎっしりと何かが積まれている部屋だった。テーブルが6つぐらいか。それぞれに椅子が4脚ほど添えられている。
そのうちの一つに3人ほどが何かを囲んでいるのが見える。
「じゃあ、僕は帰るから、また出会うことがあったらその時はよろしくね」
そう言って、その男の人は階段を大きなバッグを抱えながら降りて行った。
(なにがよろしくなのだろう?)
京也はその時のその男の人の言葉の意味がしばらく分からなかった。
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